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★はじめに1)親は加害者vs子供は被害者 (2)(3)(4)(5)

1)加害者(親)vs被害者(子供): 恐怖は記憶の中に

アパートの入り口には、夏を惜しむように小さなヒマワリが左右に大きく揺れていた。
その姿は「大きなヒマワリに負けない、見て、見て、小さくてもキレイでしょ」と。

2家族6人の生活

当時5歳の悠希(ゆうき)と穂乃(ほの)ちゃんは『父親の暴力を受ける・視る』という環境の中で暮らしていた。そんな2人には多くの共通点と特徴がある。

研ぎ澄まされた神経を武器に空気を読みとる(顔色をうかがう)。常に不安を抱えているために落ち着くことが出来ない(多動)。目を閉じることに怯えて眠りが浅い(僅かな音にも目を覚ます)。食事に興味を持てない(親の手抜き)など、これらの出来事は、親の身勝手な行動(暴力)が原因であり、子供の心に不安と恐怖を植え付けた。

この地に来て間もない悠希と穂乃ちゃんの行動が気になる未奈(みな・当時44歳)は、常に、2人の動きに注意を払いながらも「黙って家を出ないでね、家を出る時には、声を掛けてね」と、 再三にわたり声を掛け続けていたが、2人は無意識に組み込まれた行動パターンを生かすように、いとも簡単に未奈の目を掻い潜り消えてしまう。

その素早さは、正に、瞬間移動並だった。

そんな子供たちの姿が消えると、慌てるのは決まって悠希の母親・未奈だった。 その理由は、約2年前に離婚した、元夫・偽善(いつよし・当時45歳)のもとで暮らしていた悠希を約1週間前に、偽善に何も告げずに未奈は連れ出していた。
そんな未奈は、偽善への後ろめたさと『私が、連れ出すことが出来たのだから、偽善だって・・出来る・・』と、常に不安を抱えていた。

一方、穂乃ちゃんの母親・美也ちゃん(みや・当時32歳)家族は、ご主人に追いだされて、未奈家族が住む2LDKのこの部屋に転がり込んだ。

その当時の美也ちゃんが口にする言葉は、
「今は、出たくはなかった」と、『出来れば戻りたい』を繰り返し、自分の事でいっぱいになっていた。 そんな美也ちゃんは子供の事を心配する余裕はなかった。

2家族6人が暮らすこの部屋の中では、それぞれが目に見えない不安と恐怖を抱き、常に張り詰めた空気を漂わせて・・・3日目の夕食が終わった。

恐怖は記憶だ

美也ちゃんと長男の公平君(こうへい・当時中学3年)は、2人揃って6畳の部屋へ速やかに移動すると、未奈に背を向けて座った。 そんな2人の手には雑誌があり、広げると楽しそうな声も広がった。すると、その声に誘われるように、穂乃ちゃんと悠希も移動し、2人の側でふざけあい、笑い合う。

この時、6畳の部屋から流れてくる話し声や笑い声は、どんなBGMよりも心地よく流れ、台所で後片付けをする未奈の心も弾ませた・・・『ひとときの休息』。

後片付けを終えた未奈は携帯電話を手にすると、1人の時間を楽しむように6畳の部屋と対角線上にある台所の隅に座り込み、部屋の中に流れる心地よいBGMに頬を緩めていた。 そんな未奈は愼也(しんや・現夫・当時39歳)からの帰るコール(電話)を待っていた。 すると、ベルが鳴る。未奈の視線は携帯電話を見つめたまま・・大きく息を吸い、電話に出た。

「てめーェー」と、いきなり飛んできた偽善の怒鳴り声は、時空間の穴を開けた。

現在の時を共有し共に楽しんでいた4人は、突然あいた大きな穴へ堕ちた。
すると、個々の心の中に住み着いている、恐怖と孤独を甦らせる。(フラッシュバック)
悠希は身を消すように隠れ、美也ちゃんと公平君は暗闇の中で息を潜めた。
また、全身の力が抜けた未奈は、目を見開いたまま大粒の涙を落としていた。

この部屋に暴力を振るう偽善が居るわけではない、誰かが殴られているわけでもない。
ただ、携帯電話から鳴り響く怒鳴り声が・・・、心も、体も、固めた。

「卑怯な手を使いやがって、悠希を返せ!!」 『やめてーェー』と、耳を覆う、
「悠希に代われ!」と、偽善の声が鳴り響く、 『しーん・・・・・』

部屋の中で渦を巻く怒鳴り声、まるで鳴門の渦潮のように蠢く、4人は、心も体も固めたまま・・無抵抗のまま・・引き込まれる。誰もが『・・誰か助けて・・』と、叫んでいた。

そのとき “スクッ” と立ち上がったのは、5歳の穂乃ちゃん。 「ドン」と、前を見据えるその姿は、まるで、立ちはだかる分厚い壁を連想させた、が、 穂乃ちゃん自身が抱える不安と恐怖は消えず『怖くない、恐くない』と、歯を食いし張る必死しさも漂っていた。

穂乃ちゃんの視線がゆっくりと、未奈へ、悠希へと流れると・・足が動いた。

親VS子

悠希の側に歩み寄った穂乃ちゃんは「悠ちゃんの代わりに、私が出てもいい?」と、覗き込みながら静かに声を掛けると、悠希の顔が初めて持ち上がる。まるで助け船に手を伸ばすように、顔いっぱいに笑みを広げて「うん」と、力強く応えた。

そんな悠希に頷いた穂乃ちゃんの足は、未奈が投げ飛ばした携帯電話に向かって進み、手に取ると『私が出てもいい?』と、未奈へ視線を送った。 頷いた未奈と目が合った穂乃ちゃんは、“クルッ” と、180度向きを変えて、6畳の部屋にこもる悠希へ視線を送りながら、携帯電話を耳にあてた、同時に、

「お前なんか、大嫌いだーぁ!」

と、穂乃ちゃんの大声が飛ばされた、正に、悠希の代わりに飛ばされた声明だった、が、叫んだ直後に耳から離された携帯電話は『恐かった、怖かった』と、穂乃ちゃんの気持ちを語っていた。 そんな穂乃ちゃんの視線は悠希へ、悠希の足は真っ直ぐに穂乃ちゃんの元へ走り寄った。 2人が向き合うと言葉よりも「ゲラ、ゲラ、ゲラ・・」と、笑い合う。

この時、誰もが『終わった』と思えた瞬間だったが、携帯電話を持つ穂乃ちゃんの手は 『まだ、終わっていない』と叫ぶように、再び耳に当てると、口が開いた・・が、直ぐに閉じられた・・、そして、再度、口が開くと、

「もう、2度と、電話をしてくるな!」と、大声で偽善に止めの一発を飛ばした。

同時に、穂乃ちゃんの身体から遠ざけられた携帯電話は宙ぶらりんになり、未奈に突進してくるその姿は『一刻も早く、早く』と、恐怖を表していた。 穂乃ちゃんを見つめる未奈の身体が動き、腕を伸ばすと携帯電話を受け取り、指は瞬時に電源を切った。

その早業に驚く穂乃ちゃんと目が合った未奈は「ありがとう、ありがとうね」と、感情をむき出しに感謝しきれない思いを満面な笑みで応える。
一方、穂乃ちゃんは『怖かった、ドキドキした』の思いを、顔一杯に広げて「言ったよ、言えたよ」と、全身で喜びを溢れさせた。

勇者の思い

たった1人の勇気が、この部屋に居る全員の心を救い、笑顔を広げた。

はち切れんばかりの笑顔の花を咲かせた穂乃ちゃん、
全身で1歩を踏み出すと
「いーってヤッタ♪ いってヤッタ♪ ~ 」と、リズミカルに奏でた。
「いーってヤッタ♪ いってヤッタ♪ いーってヤッタ♪ いーってヤッタ♪ ~ 」

歓喜の声が空高く羽ばたく
「いーってヤッタ♪ いってヤッタ♪ いーってヤッタ♪ いーってヤッタ♪ ~ 」

飛び跳ねるように全身で勝利を祝う穂乃ちゃん、そんな穂乃ちゃんのもとに飛び込んだのは悠希、すると、2人は向き合ったまま語り合うように、共に歌い、共に踊る。 勝利を奏でるダンス、喜びを奏でる歌は続く、どこまでも2人の呼吸はピッタリに決まっている。

その雰囲気は、まるで、ミュージカルの世界を連想させるように、観客の視線を奪い、鳴りやまない拍手の代わりに、笑顔と高揚気分を溢れさせた。2人の姿はどんどん盛り上がり舞台と観客が1対になった。

そのとき、突然、ステージを飛び降りた2人が未奈に駆け寄った。

穂乃ちゃんの目は不安を語るように、未奈と悠希を交互に見て、 「悠ちゃんと間違えていたみたい。急に優しい声になって『お前もパパを捨てるのか』って、言っていたよ。」と、 その声は心細さも響かせた。ところが、笑みを飛ばし続ける未奈は、目の前の歓喜に埋もれたまま 「ありがとう、ありがとうね」と、ただ、ただ同じ言葉を繰り返す。

そんな未奈に笑みを返した穂乃ちゃんの視線が悠希へ戻ると、
「気持ち悪いね~ぇ。」と、2人同時に言葉を発し、2人同時にチョコンと頭を倒した。
その仕草に「かわいい♪」と、どこまでもハイテンションな未奈だった。

部屋の中に蔓延する全員の笑みは、消えることなく輝き続ける。
その後も2人の高揚気分は消えず、全身で勝利への乾杯を繰り返す・・3度目の宴へ。

子供の思い

恐怖を打ち破る勇気は、もしかして、ほんのちょっとの切っ掛けなのかも知れない。

翌日になっても、昨夜の余韻に浸る未奈は家事仕事を手早くこなすと、キッチンテーブルにて美也ちゃんと珈琲を飲んでいた、そんな未奈の口が弾む。

「穂乃ちゃん、凄いね~ぇ。私、嬉しくなっちゃった。私が言えなかった事を、穂乃ちゃんがぜ~んぶ言ってくれた。マジで、そんな思いが過ぎったよ。嬉しかったな~ぁ、 ほんと、感謝だよねぇ、感謝しきれないよ。美也ちゃん、ありがとう、ありがとうね。」
未奈の弾む思いがストレートに声になると、

「にこっ」と、笑みを返す美也ちゃんが、「あの2人ね、話し合っているみたいょ。 この間、ちら~と、聞こえてきたのょ。だから、あの時、穂乃が立ち上がったのかもね。」と、 誇らしげな笑みを広げる美也ちゃん・・母親の顔になっていた。

「そうか、話し合っているんだ~ぁ・・、そうかぁ・・、
もしかして、悠希の思いを聞いた穂乃ちゃんは悩んだかも知れないねぇ・・ごめんね。
穂乃ちゃんが言った『いってやった』の言葉の中には、『悠希の思いを言えた』と『穂乃ちゃんが自分へ課した責任を果たした』の、2つの意味が込められていたのかも知れないね。 穂乃ちゃんの必死さ・・伝わってきたもの、ほんとうに・・、」

「うん、だから、何度も繰り返していたのかもね。」と、美也ちゃんの声が未奈へ届くと、
「だよね、穂乃ちゃん、とっても、誇らしげだった、勇者そのものだよ。ウンウン。
穂乃ちゃんも悠希も、本当に、嬉しそうだったな~ぁ、『言えた』って、ねっ。」と、
再び、テンションを上げた未奈。
「うん」と、笑みを飛ばす美也ちゃん。

「5歳の子供なのに頼るのは、親よりも友だち・・なんだね、
親としては寂しいけど・・、私の場合は仕方ないょね・・悠希を手放したんだもん、
そんな親、頼れないよね、マジ、ダメ親だ、今回でも証明されてしまった。」と、苦笑い。
「そんなことないよ。」と、美也ちゃんの声が流れた。
「ありがと(笑みをこぼす未奈)。
穂乃ちゃんには、やっぱり、感謝しきれない・・、
悠希だけじゃない、私の気持ちまでも救ってくれた、ほんと、ありがとう。美也ちゃん」
「にんまり」する美也ちゃん。

「あのときの穂乃ちゃん、キラキラしていたね、悠希も一緒に輝いていた。
なんかさ、『がんばって、生きています』って、言われた気分だった。」

未奈が口を閉じると、2人は『昨夜の出来事』を思い起こす。

余韻に浸る2人、その静けさを破るように、未奈の声が静かにゆっくりと響く、
「もしかして、子供が持っている生命力は、親や大人よりも強いのかも知れない、
だからかな・・、子供を見つめていると、元気になるのは、」
「うん、なるよね」と、頷く美也ちゃん。

「そんな元気な子供の姿は、見ている親を安心させる。
すると、親は、子供の心が傷ついていることに・・気づけない・・
でも・・それじゃぁ・・ダメだよね、
子供を守るのは、親だもん、子供を護らなきゃ、ダメだよね。
穂乃ちゃんの姿に、ほんと頭が下がります・・私、ガンバルから。
穂乃ちゃんの姿勢をお手本に・・、美也ちゃん、ありがとうね」笑みを投げる未奈。

子供が大人に対して自分の気持ちを、意見を、真っ直ぐに伝えることは、とても難しい。
それを成し遂げたのは、穂乃ちゃん、しかも、友だちの悠希のために勇気を振り絞った。

追記

当時、2家族6人の生活は悠希と穂乃ちゃんにとって1番いい形だったのかも知れない。不安を抱く2人の子供は、共に支え合い競い合う姿を、未奈は度々目にしていた。 例えば、食事に興味を示さない2人に未奈が作ると、穂乃ちゃんは、まるで未奈に気を遣うかのように綺麗に食べきり、徐々におかわりもするようになった。そんな穂乃ちゃんの姿は、悠希の闘争心をくすぐったのか、まるで「負けない」と語るかのように食べきる。また、2人が共に眠ることによって安心感を得られるのか、熟睡する姿を目にしていた。

そんな2人の子供を見つめる未奈は「今しばらく、この生活を続けた方が・・いいかも」と、過ぎらせながらも、美也ちゃん家族との生活に終わりが見えない日々は、心身共にクタクタになっていた。1ヶ月の時が刻まれると、未奈家族がこの部屋を出た。
また、偽善から初めて連絡をもらった未奈は、不安と恐怖を色濃くした。 「もしも、私の目が届かないところで・・、悠希が連れ去られてしまったら・・、」 この思いは消えること無く、住民票を移動する事はできずに・・時を刻む。
どんな理由があっても、親が子供を手放せば、子供は『親に見捨てられた』と、認識し 『心に傷をつくる』そんな子供は、親(大人)よりも友だちを求める。 よって、親は、子供との溝を埋める努力をしなければならない。

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