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★はじめに(9)(10)(11)12)それは、マニュアル書 (13)

12.それは、マニュアル書(先生の対応)

雨は、心にも降る

悠希は幼稚園時代に先生は、“信じる事が出来る唯一の大人だ” と学んだ。
そんな幼稚園時代が、約1年半で終わり、沢山の思い出に支えられて、小学校へ入学したが、 その環境は、まるで、春の暖かさを逆行するかのように、冷たい北風が吹き荒れた。

“奪わないで欲しい、私の心” “認めて欲しい、私の心” でも、誰にも届かない。

涙の訳

学校から戻ってきた悠希の目に・・・涙。

「どうしたの?」と、驚いた未奈が声をかけた。
「雍己先生(ようこ・小1担任)に『頭がおかしいんじゃない、精神病院へ行きなさい』って、言われたの、そしてね、『嘘を付くんじゃない』って、叱られた。
でも、悠ちゃんは嘘を付いていないもん。雪ちゃんは、いるんだもん。
悠ちゃんは、頭がおかしいの? 精神病院へ行くの?」と、

心の不安が涙へ、止めどもなく落ちる。涙の顔から覗く目は、真剣に真っ直ぐに訴える。
未奈の前で立ちすくむ悠希、ひざまずいた未奈の手が悠希へ伸び、静かに抱き寄せた。

「悠希の頭はおかしくないよ。だから病院へ行かなくともいいんだよ。心配をしないで」
と、未奈が口を閉じると、悠希の手は、未奈をはがすように・・押す、
「だって、雍己先生が言ったもん。『お母さんに病院へ連れて行って貰いなさい』って」
「大丈夫、悠希は正常だよ、悠希がおかしいなぁ、と思ったら、ママは、先生に言われなくても、病院へ連れて行くから、だから、心配をしないで」

止まらない涙は心が折れていることを語り、固く閉じられた口は心が抱えた不安を隠す、
そんな悠希の思いを訴えるのは、未奈を見る視線だけ・・・

『嘘だよ、ママは嘘をついている、病院へ行かなきゃ、学校へ行けないじゃない・・どうしよう、先生が言ったんだもん、先生は正しいんだもん・・、どうしよう』と、

真っ向から未奈を否定する悠希は、未奈の腕を払い、一歩、また、一歩、後ずさりをし、未奈から離れると自分の部屋へ入った、そして普段は閉じられないドアまでも閉じた。

自画自賛

悠希の一連の流れを目の当たりにした未奈は『こんなに、子供の心を傷つけて・・、』と、怒りがお腹の底から込み上げた。気がつくと担任の雍己先生を電話口に呼び出していた。

「悠希ちゃんがあまりにも頑固に嘘を言い張るから ♪ ♪」と、
ルン、ルンしながら話す雍己先生は『待っていました』と、喜び勇んで喋りまくる。

「授業中に悠希ちゃんと2人で、1年から6年生までの、各クラス、全部を回って歩いたんですよ。そして、悠希ちゃんに、『雪ちゃんという子が、いるのか、いないのか』を、確認してもらいました。でも、どこを探しても、どこにもいないんです♪
職員室では、名簿も調べてみましたが、転校生もいません。」と、誇り高く高鳴る声、

「だから『嘘を付くんじゃない』と、注意をしておきました。それでも・・・」

雍己先生の高揚気分を表す声は高鳴り、リズムを刻むテンポはピッチを上げる。
正に、自己陶酔を物語り先生という自分を褒め称えていた。

そんな話の内容は『教育のマニュアル書』や『子育てのマニュアル書』などに記載されている、 子供が嘘を付いた時には、“叱るよりも「証拠を提示して子供自身に嘘を付いてることを、認識させる」事”、この流れを忠実に実行して、今、報告をしていた。

また、その労力は「悠希だけに注いだ」、と
「そんな私は、教師の中の教師でしょ」と、自分の功績だけを未奈へ訴えていた。

マニュアル書はマニュアル書であり、ただの骨組みでしかない。マニュアル書を読み、読んだ人が肉付けをして、初めてマニュアル書が・・・、生かされるのではないだろうか・・、

高揚しきる雍己先生の口は止まらず、話の内容もただ繰り返されて・・3度目になった。
一方、未奈は『なんて、酷いことをする、先生なんだ』と、怒りが・・・

「先生、先生、ちょっと待ってください。」と、呼びかける未奈の声は、数回、空振る、
「雍己先生、雍己先生、私の話も聞いてください。」と、声のトーンを徐々に上げた。

雍己先生の声が消えた、そして、
「悠希は、嘘をついていませんよ」と、静かにしゃべり始めた未奈、
「雪ちゃんは、いないんですよ。それなのに、悠希ちゃんは『いる』と、言い張っているんです! これを嘘と言わないで、何が嘘なんですか!」と、 上機嫌だった声は、突然、ヒステリックに爆発、雍己先生は自分が否定された事への不満と怒りを、未奈へ飛ばした。

「先生、今、私が話をしているんです。今度は、雍己先生が、私の話を聞いて下さい。
よろしいでしょうか・・雍己先生。」と、あくまでも冷静に呼びかける。

当時の未奈は、悠希から雪ちゃんの存在を『強引に消す事を避けたい』と考えていた。

子供には見える、そのわけは、

「子供は小さい頃から、ままごと遊びをします。つまり、空想の世界を作り上げます。
また、親も、先生方も、好んで、子供たちにそのような遊びをさせます。」と、
ゆっくり話す未奈は、雍己先生の反応を伺っていた、
すると、
「はい」と、雍己先生の声が聞こえてきた。
「なぜ、ままごと遊びをさせるのか、雍己先生はご存じです・・よね。(反応なし)
ままごと遊びは、右脳を育てる遊びの1つだからです。観たものや体験した記憶などを基に、頭の中でイメージし、言葉にし、行動する事によって、より一層、右脳を活発に使うことができ、育てることもできるから・・です。ねっ。
つまり、就学前の子供たちは無意識に右脳を使っている事になります。」

「は~ぁ。」と、『何を言っているんだ』と、言いたげな声が流れる。

「そんな子供たちが、小学校へ入り左脳を使う流れを学んでいきます。
でも、右脳から左脳へと、いとも簡単に移行されることはありません。まして、小学校へ入学したばかりの子供たちは、まだまだ、右脳を使っている時期でもある、と思います。」

「あっ、は…ぁ。」と、未奈に呆れる雍己先生の声。

「小学校に入ったこの時期は、幼児期から児童期へ移行される時期に当たり、子供たちの心は不安定にもなります。 私なんかよりも雍己先生の方がお詳しいですよね。」
「あっ、はい。」と、歯切れのいい返事が返ってきた。

「この時期の子供だからこそ、自分がイメージしたものなのか、実在するものなのか、自分でも、訳分からなくなる・・、そんな時期でもあると、思うのですが・・。
イメージ(想像)したものを現実のものとして認識する。これは、なぜ、だと思いますか?
(反応なし)
私は、想像の世界は『必要』な事を意味している・・と、思いました。
そして想像の世界は、ある意味で『救い』であり、『不安定な心を護ってくる』とも、考えています。」 間を取りながらゆっくり話す未奈は、雍己先生の反応を待っていた・・が、
「・・・・」無言。
「そんな想像の世界を、救いの部分を、大人が、まして先生が『嘘』という簡単な言葉で、ばっさり切り捨ててしまう事は、いかがなものか・・、それでいいのでしょうか?」

雍己先生の声は・・全く聞こえてこない。

「悠希は嘘をついていないんです、その理由は、悠希には雪ちゃんが見えるからです。
雪ちゃんが見える悠希には、“嘘をついている”、という、自覚も認識もありません。
だからこそ、悠希は、先生に信じてもらいたくて『雪ちゃんはいる、と必死に訴えた』と、思います。 そんな悠希に対して、雍己先生は『嘘つき』とか、挙げ句の果てには『頭がおかしい』とか、『精神病院へ行きなさい』などと、指示されたのです、
このときの悠希は、どんな思いを抱えたと思いますか?」

「・・・・・」無言が続く。

「小学校へ入ったばかりの子供たちは、親よりも先生を信じる時期でもあると思います。
そんな先生の言葉は、常に、子供に、大きな影響を与えます・・・」
「学校には、雪ちゃんは、いませ・・・」
未奈が話している途中に、雍己先生の怒りの声が割り込んだ、が・・・自ら止めた。

嘘という言葉で片付けないで

一拍おいた未奈の口が開く、

「雪ちゃんの存在を『嘘』と、決めつけないでください。
今の悠希には、雪ちゃんが必要な存在だから、雪ちゃんが見えているのです。
そんな悠希は、嘘をついていないのです。
もう少し時間を下さい、雍己先生の大きな心で見守ってもらえませんか・・。
今、暫く、時間を下さい。お願いします。」と、話を切った未奈。

雍己先生からの返事を待っていたが・・、全く聞こえてこない、
そんな沈黙の時間に、息苦しさを覚えた未奈、

「右脳と左脳が共に使われるように、取り組む事がベストだ、
とも言われていますね。イメージ脳(右脳)は、素晴らしいですからね。」と、
明るく声を飛ばした未奈だったが、焦点がずれた・・と、思いが、流れた。

それでも、雍己先生の声は聞こえてこない・・、

「雍己先生、悠希は、子供たちは、学校へ通い始めると、先生の言葉を『絶対』だ、
と認識します。つまり、先生が話す言葉は『全て正しい』と、理解をします。
悠希が、雍己先生の言葉によって、どれほどのショックを受けて帰ってきた、と、思いますか・・・雍己先生には想像が付きますか・・?
ぼろぼろと涙をこぼしながら帰ってきました。」と、未奈は付け加えて口を閉じた。

しばらくの間・・・沈黙が続く・・

「すみませんでした。」と、さっきまでの勢いが消えて、囁くような小声が流れた。
「色々、生意気な事を言いまして、失礼しました。今後ともどうぞ、よろしくお願い致します。」と、未奈は受話器を持ちながら頭を下げていた。

『嘘』を正すことは必要、でも、マニュアル書や大人目線などを中心に、
『嘘を付くな』と、頭ごなしに叱る行為は、もっとも危険な行為なのです。

報告と反応

未奈が電話をきると「誰と話をしていたの?」と、2階からチョコンと顔を出した悠希が声を飛ばした。 その声に振り向き2階を見上げた未奈は、
「雍己先生と話をしていた、『悠希は嘘をついていません、頭はおかしくありません』って、言ったよ。」と、悠希と目を合わせた未奈が応えた。

すると『ふ~ん』という表情を浮かべて、悠希は1階へ下りてきた。

悠希を見つめる未奈の頭の中では、グルグルと問いかけが繰り返された。
『悠希の心を代弁してくれる雪ちゃんは必要、でも、悠希の心がこれ以上傷つくことは、
避けたい』と、そんな未奈が出した答えは・・、

「ねっ、雪ちゃんの話は、この家の中だけで、話をしようか・・、
ママは、雪ちゃんの事がとても心配だし、気になるし・・、
ママとパパだけで話をしよう。」と、悠希の様子を伺いながらゆっくりと言葉にした。

未奈は、悠希の口から雪ちゃんが消えてしまうことを・・おそれていた。
その理由は、今の悠希は、悠希自身の言葉として語ることが出来ないから・・です。

あれから1週間が過ぎても、悠希の口から雪ちゃんの名前も話も出ない・・、
そんな悠希を見つめている未奈は、どうしても気になって、
「最近は、雪ちゃんに会っていないの?」と、声を掛けると、
「雪ちゃんのお父さんとお母さんは離婚をする事を決めて、雪ちゃんはお母さんと一緒に引っ越した、・・引っ越すんだって、」と、言い換えて悠希の口が閉じられた。

心の涙

悠希は、雪ちゃんの人格を消した。でも、閉ざされた心が開かれた訳ではない。

その後は、過去の想い出にすがる、「チャッピー(愛犬)に会いたい」「ミッキー(保育園の友だち)に会いたい」と・・、涙しながら繰り返す日々が始まった。

悠希の口から語られる想い出は、“笑み” を広げる。
『会いたい』、の言葉を発すると、“涙” がこぼれ落ちた。

追記

・雪ちゃんの名前について、岩手にて悠希につけられた名前、だと、後に聞いた。
・雍己先生の電話の内容は『嘘を正した』と、自画自賛のコメントのみだった。
 未奈は前日の傘事件を問われると思っていたが、一言もない事へ違和感を持った。

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