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★はじめに(8)(9)(10)11)自分を護るために(悠希と雪ちゃん) (12)

11.自分を護るために(悠希と雪ちゃん)

梅雨の雨は花にも人にも恵みの雨、でも、心に降る雨は誰の目にも見えない“悲しい雨”。
辛く苦しい思い出は葬りたい。でも、記憶は消えない、背を向けて“もう1人の自分へ”。

小学校へ通い始めて約2ヶ月が過ぎた。この間の悠希はひたすら友だち探しをしていた。
でも、悠希が求める友だちに出会えず、日々の時間に苦しみ寂しさを募らせていた。

友だちと遊ぶ事は、ある意味で現実逃避である、時として人は現実逃避が必要な時がある。

孤独は友だちを探す

「ただいま~、新しい友だちができたよ~ぉ、雪ちゃんっていうんだ。
悠ちゃんよりも、1つ年上なの、2年生なんだ。
この近くに引っ越してきたばかりだから、友だちがいないんだって。」と、

弾む声で一気に喋りきる悠希の顔には、晴れやかな笑顔が光っていた。
そんな悠希を視るのは久しぶりだった未奈の顔にも安心の笑みが広がった。

「良かったね~ぇ、家が近いんだ。たくさん遊べるね~ぇ。」
「うん、遊びに行ってくるね~ぇ。」と、ランドセルを置くと元気に飛び出した。

『孤独は嫌い』だから居場所を求める。『大人は嫌い』だから友だちを求める。

まず、一歩(友だちを借りて)

このときから始まった、悠希の明るい声、笑顔の花は、学校から帰ってきても・・、
遊びから戻ってきても・・、次の日になっても・・、雪ちゃん色は輝き続ける。

そうして3日目、
「今日もね、悠ちゃんが階段に座っていたら、後ろから、雪ちゃんが来たの♪ 
それでね、今日は、たくさん、お話をしたよ。」と、弾む声、弾む顔で話が続く、

「お兄ちゃんが、交通事故で死んじゃったんだって、
それでね、お母さんは泣きながら、お酒ばかりを飲んでいるんだって、
お父さんは家に帰ってこないんだって、」

「・・?・・?」未奈。

「でもね、たまに帰ってくるんだって、
そのときは夜遅く、酔っぱらって帰って来るんだって。」と、付け加えた悠希。

悠希が話す内容は、笑顔の花を咲かせて、声を弾ませて、話す内容ではない。
それなのに悠希が話す声は、まるで、ひとり歩きをするように楽しそうに嬉しそうに弾む。

そんな悠希と話の内容に違和感を持つ未奈の脳裏では、良太(長男)を失った当時の頃、 悠希と離れていた2年間の空白を・・重ねる・・と『もしかして、雪ちゃんは悠希かも』・と。

人は、辛すぎると苦しすぎると悲しすぎると自分を護るために “もう1人の自分を作る”。
それは、現実から自分を引き離したい、その気持ちが強く現れた証拠でもある。

語られる話に寄り添う

「それでね、お父さんとお母さんはケンカばかりしているから、離婚、しちゃうかも・・」
突然、声のトーンを下げた悠希、口を閉じるとゆっくりと、未奈から離れていく。

どんどん離れていく悠希の背中を見つめていた未奈『何か、声をかけたい』・・と、

「雪ちゃんのお母さん(悠希の足が止まり振り向く)に、ママも、ママも、会いたいなぁ」
と、未奈は、ただ、ただ、振り向いてくれた悠希に笑みを飛ばし続けていた。
そんな悠希の顔には、あふれんばかりの疑問符が張り付き、その場で固まった口は、
『私、何か言った? ママは何を言っているの?』と、今にも声が飛び出しそうだった。

「雪ちゃん、可哀想だね、辛いよね。ママ、雪ちゃんのお母さんと話がしたいなぁ・・。
だめかな・・? だってさ、雪ちゃんのお母さんと、ママは、よく似ているよね。
ママは良太が死んだ時、泣いてばかりいたし、泣きながら、お酒ばかりを飲んでいたじゃない。 ほら、雪ちゃんのお母さんと、ママは、良く似ているねぇ・・。

悠希は辛かったね、ごめんね、ママ、お酒ばかり飲んでいて、ごめんね。

雪ちゃんも、辛いよね、可哀想だよね。ママに何か出来ないかな、ママ、会いたいなぁ。
ママね、雪ちゃんのお母さんの気持ちが解るような気がするの、だからね、話が合うかも知れないよ。(にこっ) ママ、会いたいな~ぁ。話をしたいな~ぁ。ダメかな?」

雪ちゃんを通して悠希に謝る・・未奈・・ゆっくり、ゆっくり話をしていた。
一方、悠希は不思議空間に入り込んでしまったように “ぽわ~ん”・・のまま。

「ママ、お手紙を書こうかな。お手紙を書いたら、悠希は雪ちゃんに渡してくれる?」
「うん、いいよ。」と、突然、元気に応えた悠希、笑みを返す未奈は、
「悠希は、雪ちゃんのお家を知っているの?」
「知らない、だって、悠ちゃんが1人で居ると、雪ちゃんが来るんだもん。」
「そうか、じゃあ・・、悠希が友だちと一緒にいる時には、雪ちゃんは来ないの?」
「うん。」応えながら外を見つめる・・悠希、
「雪ちゃん、どこに住んでいるのかわからない。」と、返す・・が、

視線は、6畳の部屋を突っ切るように、その先の外を見つめる、
足は、視線を追うように窓へ向かい、前に立つと、悠希の腕が静かに動く、

「あの辺から来るんだ。」と、真っ直ぐに外を指さす。
「そうかぁー、悠希は、知らないんだ。」
「うん・・、でも、あっちからくるよ。」と、外を指さし続ける、未奈が頷くと、
「そうか、じゃあね、今度、雪ちゃんに会ったら、お家がどこにあるのか、悠希が聞いてくれる? それでね、『ママが会いたいって、言っていた』と、伝えて欲しいの、
そうしたら、ほら、悠希と一緒に遊びに行けるもんね。」と、微笑む未奈。
「うん、わかった。」と、再び、元気な声で応えると、ニコニコとこぼした。

お腹が空いた・・

あれから数日が過ぎた、ある日、遊びから戻った悠希は、気配を消してリビングに現れた。

「雪ちゃん・・、お腹が空くと・・、お菓子とジュースを食べているんだって・・、
でもね、お菓子が・・、もうじき・・無くなっちゃうんだって・・・、」と、

過去を忘れたい悠希、でも、心はしっかりと過去を見つめていた。

亡霊のように立ち尽くす悠希、まるで心だけがどこかへすっ飛び、今、目の前に表れた光景を見つめて、 食べ物がなくなってしまう事への恐怖と不安を訴えている・・様子だった。
そんな悠希の姿は“異様”そのもの、まるで、心と体が分離しているような雰囲気だった。

悠希を見つめる未奈は良太を失った当時に、悠希から言われた言葉を思い出した。
『ママは、ここにいるのに、いない』と、正に、この言葉がしっくりきた。

「そうか・・、雪ちゃん、ご飯を食べていないの?」と、静かに声をかける未奈、
「お母さんは、ご飯を作ってくれないんだって。」と、怒るように声を飛ばすと、
「台所のテーブルの下にダンボール箱があって、その中に、お菓子とかカップヌードルが入っているんだって、 雪ちゃんは、そこから、取り出して食べているんだって・・。」と、

再び、一齣、一齣を・・ゆっくり・・と、話す悠希、

「そうか、」と、未奈の口が開いたが、悠希の異常さに口を閉じた。
「雪ちゃん・・、お腹が空いているけど・・、食べる物がないんだって・・、お母さん、作ってくれないんだって・・・・」と、ゆっくりと繰り返す。

光景を思い浮かべる

『食べ物はお菓子とジュース』『お腹が空いても食べる物がない』『お母さんはご飯を作ってくれない』と、雪ちゃんの名で語られた出来事。 また、話の中に『恐怖と不安』が潜み、雪ちゃんではなく、悠希の心に、今も、厚く重く記憶されている事を知った・・。

口を閉じたまま悠希の話を聞いていた未奈は、“キッチンテーブルの下に段ボール箱があり、その箱から覗いていた、お菓子とカップヌードル・・”、を甦らせた。 また、未奈がこの光景を目にしたのは、話し合いをするために偽善と悠希が住む家の中へ入った時だった。

その後

翌日からは「雪ちゃんと遊んだ」と、報告のみに切り替わった。
悠希の気持ちが落ち着いたのだろうか?・・・それとも・・・

悠希の口から雪ちゃんの話が消えて、4日目・・、 未奈は雪ちゃんを通して話してくれる悠希の話を聞きたい・・と、思いを秘めながら、夕食の準備をしていた・・

「お母さん、が、ご飯を作ってくれないんじゃ、雪ちゃん、どうしているのかなぁ・・?」
と、未奈の思いが囁かれた、すると直ぐさま、
「雪ちゃんは、お腹が空いても食べる物がないんだよ、(怒り声、一拍おいて)。
だから、食べ物を捨てるゴミ箱(三角コーナー)の中から、食べられる物を探して、食べているんだって、」と、今までに、ない、勢いで言葉が飛ばされた。

思わず『ごめん、聞いてごめん、それは、嘘・・だよね』と、自分を責める未奈。
話をしたくない時に問われてしまう事で、話を誇張してしまう事を未奈は知っていた。

「ゴミ箱の中から食べ物を拾って食べると、お腹、壊しちゃうよ。雪ちゃん、大丈夫かな・・・?」と、未奈が応えると、一瞬 “はっ” とする悠希と目が合い、
「悠希が、以前に話してくれた、話は『カップヌードルやお菓子を食べている』って、言っていたよ。」と、未奈は悠希が話してくれた内容を繰り返すと、悠希の視線が変わった。

「うん、今は、無くなっちゃったんだって、でもね、雪ちゃんが『お腹空いた』って、言うと、怒鳴られちゃうんだって。」と、視線を未奈へ送り『信じて』と、訴える・・。

そして、
「雪ちゃんが学校へ行こうとすると、お母さんが止めるんだって、だからね、雪ちゃん、なかなか学校へ行けないんだって、 でもね、今日、始めて、学校で会ったんだよ。」と、声を弾ませ頬を緩める悠希、まるで話を切り替えるように・・。

「そうか、始めて、学校で会ったんだ。良かったね~ぇ。雪ちゃんも、学校へ行けて、ほんとうに良かったねぇ。」と、 未奈が笑みを浮かべると、悠希は嬉しそうに頷いた。

そんな悠希に、
「悠希が、雪ちゃんと、学校で会う時は、どんな時?」
「悠ちゃんが、1人でいると、雪ちゃんに会うの。」
「えっ? 悠希は学校でも、ひとりでいるの?」と、反射的に出た言葉に未奈は慌てて
「悠希の友だちは、雪ちゃんの事を、誰も知らないの?」と、言い換えた、
「うん、悠ちゃんが階段に座っていると、後ろから、雪ちゃんが来るの。」と、
明るく応えた悠希に、未奈はそっと胸をなで下ろして・・微笑んだ。

「あれ・・、そう言えば、悠希が遊びに行くと、よく雪ちゃんに会うんだよね。
その時も、たしか、悠希は、1人でいる時・・なんでしょ。
そして、いつも、悠希の後ろから来るんでしょ。」と、
未奈は、悠希から聞いた話をゆっくりと繰り返した。

すると、
「この間、学校へ来た時は、前から来たよ。」と、ほほえむ悠希。
「そうか、前から来たんだ。」
「うん、東門から入ってきた。」と、ニコニコと応えた悠希は、未奈から離れた。
そんな悠希を見つめていた未奈は『悠希も東門から入る』ことを知っていた。

追記

寂しいのに、悲しいのに、辛いのに、苦しいのに、・・その思いを言えない。
そんな心は、今にも張り裂けるほどに・・・悲鳴を上げている。

自分の気持ちを語れない心は、自分を護るためにも・・もう1人の自分が必要なのです。

子供は、自分が観たもの、自分が体験したこと、全てを学ぶ。
悠希の話は様々な出来事の集合体だった。

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