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★はじめに(7)(8)(9)10)「可哀想」って言われたい(負のスパイラル) (11)

10.「可哀想」って言われたい(負のスパイラル)

ひとりぼっちは嫌い

自分の思いは他人には伝わりにくく、また、意図しない方向から攻められる場合もある。
心が『寂しい』と呟くと『可哀想』と思える過去の出来事を探して、第三者に伝える。

「虐められた、誰も遊んでくれない。」と、遊びに行った悠希が直ぐに戻ってきた。
「そうか、じゃあ、今日は、ママとお話をしよう。」と、明るく声を飛ばす未奈。

幼稚園卒園と同時に引っ越しをした悠希は友だちも失った。 それでも、小学校へ通い始めるとそれなりに友だちはできた・・が、不安定な心(多動・問題行動)は、友だちを巻き込んで様々な事件を勃発させた。 すると、当然のように先生や父兄たちに “問題児として認識” され、子供たちは悠希と遊ばなくなった。

ご近所さんの噂話

ここは住宅街の一角、車の出入り口は1カ所のみ、逃げ回っている当時は、この環境が安心できると思い・・引っ越しを決めた、が、日々の時間は噂話の花が咲いていた。

そんなある日、未奈が外出し戻ってくると・・、いつもの光景が広がっていた。

道をふさぐように道路幅いっぱいに広がる子供たちの輪と、その場を賑わす親たちの輪が弾んでいた。 その光景を目にした未奈は、逃げたい衝動に駆られながらも・・『こっちの道へ来なさい』と、まるで、誘導されるように未奈の足は前へ進む、

「こんにちは、悠希がお世話になっています。」と、
頭を下げながら足も動かす未奈は、一刻も早くこの場を離れたい一心だった。
「こんにちは、ちょっと、いいかしら」と、
未奈の足を止めたのは、この地域で信頼を受けている京子さんの声だった。
「悠希ちゃんから聞いた話なんだけど、お兄ちゃんが事故で死んだって、本当なの?」と、
『嘘でしょ』と、言いたげな声や言葉の流れは、何の躊躇もなくストレートに響いた、

「あっ・・はい。」と応えると、事実を確認するように、どんな事故だったのか、何時頃の出来事なのか・・などと、 詳細を問われて1つ1つ応えていく未奈の目から涙があふれた。

想い出

悠希に声をかけた未奈が隣に座った。

「悠希は良太が死んじゃった事を、みんなに話をしているでしょう、どうしてかな?」
「可哀想って、言われたい。」真っ直ぐな言葉が返ってくる。
「そうか、可哀想って、言われたいんだ。」と、未奈が繰り返すと悠希が頷く。
「そうだよね、悠希は、可哀想だもんね。ごめんね。」きょと~ん・・。

「ママはね、他の人に『可哀想』と思われるのイヤなんだ。ママと悠希は反対だね。」
「どうして?」と、不思議がる悠希。
「良太は死んじゃったから、会いたくても、もう、会えないけど、でもね、
 良太の想い出はいっぱいあるよ、だからね、会いたいときに、いつでも会えるの。
 ただ、残念な事が1つある・・、良太は、もう、成長しない・・こと。」

未奈が笑った、悠希も笑った、

「そうそう、良太は悠希が大好きなのよ。あのね・・・・・・・・、」

良太の話が続く・・

「本当はね、ママも、良太の話をしちゃうんだ~ぁ。」悠希の顔が “ホッ”・・と、
「『お子さんは、1人?』なん~て、聞かれると、『いえ、上に、もう1人います、
今は、別に暮らしています』なん~て、ねっ、でも本当の事だよね、」と、笑う。

「ママはね、良太を産んだ事、悠希を産んだ事が、自慢なの。
それに、ママの子供は、悠希と良太の2人だもん。
『子供は何人?』なん~て、聞かれたら、2人って、応えたくなっちゃう。
だってさ、良太を産んだ事を隠すのもイヤじゃない(笑)
それにね、
『子供は何人ですか?』なんて尋ねる人は、
良太が生きていようが、死んでいようが、全く興味ないしね、
知りたい事は『子供の人数と女の子なのか、男の子なのか、何歳なのか』
だもんね。だからさ、わざわざ死にました、なん~て、言わないんだ~ぁ。」

負のスパイラルを止めたい

『可哀想と言われたい』、この思いは・・この言葉に相応しい『過去の出来事を探す』。
すると、同情を貰える(人の視線が集まる)、でも、この同情は必ず沈静化する。

そのとき、今よりも寂しさに包まれる、そして再び、同情をもらえる出来事を探す・・。
この『負のスパイラル』を止めたい。 “悠希には前を見て歩いて貰いたい” から。

笑みをこぼし続ける未奈、聞き入る悠希はしんけん・・・。

「良太が死んだ時ね、ママの友だちは、いなくなったんだよ。」・・と。
「どうして?」と、驚いた声を飛ばした悠希。

「親にとって子供を亡くす事は、大事件なの、
この世の中のどんな出来事よりも、辛くて苦しくて悲しい事なの。
親はね、自分の命よりも子供の命が大切で大切で、もっとも失いたくない宝なの。
例え、たくさんの子供がいても、1人、1人が、大切な、大切な子供たちなのょ。

つまりね、良太、という子供の代わりはいない。
もちろん、悠希、という子供の代わりもいない。
この世で、たった1人なんだ。

こんなに素晴らしい子供の命を失うことなんか、親は、考えられないのょ、
きっと、誰もが、そう思っていると思うよ。
そんな子供を失ってしまった出来事は、あまりにも辛すぎる出来事だから・・、
ママに声を掛けてあげたくとも、掛ける言葉が見つからない・・んだと思う。
だからね、ママから離れていったんじゃないかな・・・、」

悠希を見つめながら、ゆっくりと話す未奈、悠希の視線は未奈に釘付け

「ママは、『良太が死んだ』という言葉を、使いたくないんだ。
だって、ママが、ママの友だちから『子供が死んだ』と、聞いたら・・、
辛い、苦しい、悲しい、言葉が見つからないもん。
こんな、どん底の思いを、出来ることならば・・誰にも味会わせたくない。」

未奈の口が閉じられた・・そのとき、

「死ぬのが怖い。死ぬのは恐い。」と、突然、怯えるように悠希が訴えた。
「そうだよね、死ぬのは怖いよね、それでいいんだよ。
だからね、悠希は、長生きしてね、ずーと、ずーと、生きていてね。」
悠希を抱きしめる未奈、
「ママも♪」突然、未奈に抱きついた悠希の声は明るく跳ねた。

変化

あれから数日が過ぎると、
「結構、辛いんだよね~ぇ。」から始まった悠希の話は、

「友だちのお母さんに、『きょうだいはいるの?』って、聞かれるの。
ひとりっ子って、思われたくないから、『いない』って、言いたくないし。

だからね、ママと同じように『お兄ちゃんは、1人で暮らしている』って言った。」
ニッコ、ニッコの顔を見せた悠希に・・、クスッ、と笑った未奈。

親(大人)の心ない言葉

引っ越しをすればご近所さんの顔が代わる。子供が学校へ通えば親の繋がりも生まれる。
このときから数日が過ぎると、集会があり連絡を受けた未奈も・・・参加した。

話し合いが終わり未奈は片付けを始めると、後ろのテーブル席に座っていた女性が、
「悠希ちゃんのお母さん?」と、上半身をねじり未奈へ声を掛けてきた。
「あっ、はい・・、」と、振り返った未奈が見た人は、顔も名前も知らない人だった。

「お兄ちゃん、事故で死んだそうね。」と、唐突に飛ばされた言葉に未奈が驚いていると、 周りに座っている親(大人)たちは『私、関係ない』と語るように一斉に下を向いた。

「子供が死んだのに、よく、あなたは、生きているわね、私はダメだわ、
自分だけが生きているなんて、信じられない、考えられない、そんなこと出来ない、
私だったら絶対に死んでる、あなたは、よく生きているわね」と、怒り口調が爆発。

「だって、子供が死んだのよ、ねっ、私はダメ、絶対にダメ、生きている事なんて出来ない、 絶対に死んでる、生きていられない、ねっ、ねっ、」と、周りに座る人へ声を掛ける。

唐突に喋り続ける40歳前後の女性は、子供を失った親の未奈が今も生きている事への怒りと軽蔑を送り、此処に現れた事にも呆れていた。 また、友だちに何度も賛同を求めていたが、誰1人として顔を持ち上げる人も彼女の口を止める人もいない、ただ沈黙を守り続ける。

それでも彼女の怒りが収まらないのか、未奈へ、仲間へと繰り返された。

「子供が死んだのよ、何であなたは生きているの、信じられない、死なないの?
 私だったら、絶対に死んでいるのに、」と未奈に止めを刺す、そのしつこさに、
「私だって、何度も、死を考えた」と、静かに発した未奈、
「そうよね、普通は死ぬわよね」と呆れた感じで返し「ねっ、ねっ」と仲間へ・・・。

追記

この行為は心の傷をえぐる、二次・三次被害そのものなのです。
残酷なのは子供だけではない、分別を持っているはずの親も大人も、充分、残酷である。

日常の会話の中で、ごく普通に、ごく当たり前に、交わされる言葉の中に、
聞きたくない言葉、言いたくない話が、きっと、誰にでも・・ある。

そのとき、その話やその言葉に怯えるよりも、うまく交わせるようになりたい・・ねっ。

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