良太U、ノンフィクション小説のタイトルバナー
menu
@ 赤ちゃん誕生
A 母子寮の生活
B 自分の足で歩く
C ままごとの生活
D ふたりぼっち
E いじめと登校拒否
F 新たなる挑戦
G 再会への道程
H 病院にて
I アルコール漬け
J ありがとう…
K 終わりのない闇
L ともだち
M 編集後記
◆◇◆
その後…わたし
◇◆◇
♣ 足跡 bbs
♣ 良太UTop
♣ 慢性ショックhome

( no.35 ) 病院にて
13日の朝方、病院へ駆けつけると、先生の話が始まった。
「病院に来たときは既に瞳孔が開いていて心臓も止まっていました。それを心臓マッサージとか
色々手を尽くしてここまで助けましたが、脳はもうダメです。今は自分で呼吸をしていません。
何とか機械の力をかりて動かしている状態です。もしも、自分で呼吸をするようになれば、助か
るでしょうが、その時は、植物人間になってしまいます。覚悟しといて下さい。」 という。
私は、先生の話を聞いているふりをして心の中では否定し続けていた。でも、涙がポロポロ頬を
つたい抑えることは出きず、体は震え必死に自分を支えていました。
やっと先生の話が終わったと思ったら、今度は看護婦さんの話が始まった。
「入院の手続きをして下さい。」 というと、いくつかの質問が始まりました。その中で印象に残っ
た質問が一つあります。それは、「お金に余裕がありますか?」 に対して 「いいえ、ありません」
と、答えたものの、「ある」 といった方が良かったのか…悩んでしまいました。でも、看護婦さん
の話には続きがありました。
「9時になると、1階の売店が開きます。そこで買い物をしてきて下さい。ティッシュ・紙おむつ・
髭剃り・歯ブラシを買って、ここに持ってきて下さいね。」 と言った。「はい」 と答え、1階の売店
に足を運びながら、『なん〜だ、やっぱり良太は大丈夫だ。だって、髭剃り・歯ブラシが必要な
んだもん』 と呟きながら、お店が開くのを待って品物を買い、再び “ICU” の部屋へ戻った。
看護婦さんに品物を渡すと、「あちらのドアから入ると着替えがあります。それに着替えて、こ
ちらに出てきて下さい。」と、いう。言われた通りに身支度を整えて再度、ICUの部屋に入ると
看護婦さんに導かれて、やっと良太に会えました。
そこには、良太を囲むようにたくさんの機械。そして、体には、色々な線がつけられてその中で
眠っていました。心電図を見つめると 『ちゃんと動いている』 そう思いながら、大きくなった良
太の手を握りしめた。とても温かかった。その温かさに、私はホッとしながら良太を呼んだ。
「良太、聞こえる?」 私が呼びかけると、握っている手を握り替えそうとしているかのように指が
動いた。「良太頑張るんだよ、必ず助かるから、ねっ。」 と、話しかけるが、其処には無言の良
太がいた。でも、その手の温もりは私を包みホッとさせてくれた。絶対に生き返る。目を開けさ
えすれば、必ずいつもの元気な良太が微笑んでくれる。手の温もりは私にそんな思いを抱か
せてくれる出来事でした。

良太の側にいると、看護婦さんが 「警察の方が見えました。あちらで待っています。」という。
涙を拭くが止まることを知らず頬をつたい続けていた。そのまま警察の方が待っている部屋へ
行った。挨拶を交わすと事故の説明に入った。
「事故を起こした場所は、公園の横の道路でした。時間は午前2時頃。良太君は直進で左側
を走っていました。相手は良太君に突っ込んだ形になり、正面衝突です。良太君はそのまま
飛ばされて、相手は逃げてしまいました。今、全力で犯人を追跡しています。良太君が身分を
証明する物を持っていないため、連絡することが出来ず、この時間になってしまいました。」と
いう、その後は質問が始まりました。
私は、冷静さを装うのに必死でした。出来る限り耳を傾け話を聞く体制を整えました。
「良太君は免許書を持っていますか?」 「いいえ、すみません。」 「バイクは誰の物ですか?」 
「良太のです。友達にお金を払って譲り受けたようです。」 「自賠責は入っていますか?」 「す
みません詳しいことは知りません。」 「そうですか、いいですよ、こちらで調べますから。必ず
犯人を捕まえます。」と、言葉を残して戻っていった。
警察の方を見送ると、愛の体調が気になった。お腹も空いているだろうし…色々考えて彼と
愛を家に戻すことにしました。私はそのまま病院に残った。

病院に1人取り残されると、とても不安になった。あふれる涙と戦いながら 『誰か側にいて』
そんな思いを抱えて、私は公衆電話の前に立った。そして2・3人の友達に電話を入れた。
その中の1人、清美さんが、「私、今日、会社が終わったら行くから。」 と言ってくれた。
私はこの言葉を待っていたのだと思う。『救われた、』 そんな思いが心の中で広がった。
でも、彼女は私生活でも忙しい人、それを知っている私は、甘えるわけにはいかなかった。
「いいよ、忙しいのに大丈夫だよ。その気持ちだけで嬉しいから大丈夫だからね、ありがとう。
本当にいいよ。それに面会が出来ないんだ。家族か親族のみ、と言われているから、ありがと
う、ごめんね心配をかけて…、」 と、涙声のまま電話を切った。
その夜、彼女は仕事が終わると駆けつけてくれました。彼女の顔を見るとなぜかほっとして、
涙とともに 「ありがとう。」の言葉で迎えました。 このときの私が出来る最大のお礼の言葉でし
た。彼女は、日頃から良太のことをいつも気にかけて心配し可愛がってくれた人の1人です。
そして、口癖のように 「良太君はきっと大物になるよ、私、楽しみにしているんだ。」 って、言っ
てくれました。その言葉は、私が幸せを夢見る言葉でもあったのです。
良太が眠っている部屋へ彼女を案内すると、彼女は良太にたくさんの言葉をかけてくれました。
その後、病室をでると、彼女を見送るために一緒に病院の出口まで歩きました。このときも私に
たくさんの励ましの言葉をかけてくれました。
(本当に来てくれて、とっても嬉しかった、ありがとう。)

また、今日の午後には、良太と一緒にバイクを乗りに行った友達。小松君のご両親が病院を訪
れました。その時の奥様の話では、
「警察で息子たちは、朝からずーと事情調書を執られているの。どうやら、相手の人と仲間か知
り合いじゃないか、と疑われているようなのよ。」という。そして、「良太君はどうお?」と訪ねられ、
「本当は、息子たちと一緒に来ようと思って、ずーと待っていたけれども…、終わりそうもない
から、2人で来たの。」 といった。その後は良太を見舞い。私の話し相手をしながら事故の話に
なりました。ご両親は複雑な心境を覗かせていた。その後、再び警察署へ戻って行った。
この日の夕方には、家族全員で病院を訪れ、良太に会うと帰っていった。

この時の小松君は、肩の力が抜けて…抜け殻のように見えました。とても辛そうで見るからに
痛々しく思えた。このことを良太に伝えたくて、「良太、友達のためにも頑張ってよ。貴方の大好
きな友達がショックを受けているよ。助けられるのは良太だけだよ。良太、負けないで…、」と、
しゃべり続けても、目を開けることも、声を聞くことも出来ない。ただ良太の顔を見つめ、私は話
しかけた。そんな良太を見守っている私は、心の底から沸き上がる不安に押しつぶされそうに
なりながらも、何とか自分を保てたのは、良太の温かい手のぬくもりと、呼びかけると動かして
くれる指の動きがあったからです。

そんな時が流れていくと、警察の方が飛び込んできました。
「犯人を捕まえたよ。あの子たちは…?」 「今、帰りました。」 「そっかぁ…確認して貰いたいん
だ。」と、言葉を残すと再び飛んでいった。

良太のことで頭の中はいっぱいですが、愛の行動にも目を見張るものがありました。
病院にいる時の愛は、とても不思議な行動をとりました。
とにかく動き回る。じっとしていることが出来ないのか、辛いのか、ぐるぐると走り回っているか
と思うと、突然、でんぐりがえしをする。すぐ起きあがると走り回る。
そんな愛の動きを止めようとしても、止まらない。笑顔のまま走り回っていました。
私はただ見つめることしかできず、ジーと見つめていると、愛に良太のことを確認したくなって、
「愛、良太どこにいるのかわかるの?」 と、声をかけてみた。すると、微笑みながら、
「ほら、あそこに良太がいるよ。歩いているよ。あっちからこっちへ。こっち見ているよ。」といい
ながら、ニコニコしていました。私は、「良太に言って、自分の身体に早くもどれって」 というと、
愛は私に微笑んで、私の手を払いのけると、また、くるくると動き回っていた。
そんな、愛を見ているととても辛くなりました。
早く家に戻してあげたい、そう思い、彼と愛を家に戻すことにしました。2人を見送り、外に目を
向けると、もうじき日が暮れる…。



Copyright©2005 youalive All rights reserved