1人で頑張りすぎないで、大丈夫、弱い自分を出してね、すると気持ちが心が軽くなるよ、まずは、自分の心と見つめ合う準備をしよう、ね。

㉕ 変化

過去の人生には『思い出したくない過去』『消したい過去』『捨てたい過去』が、あるかも知れない、 でも『人生切り刻むことは出来ない』過去の自分も、今の自分も、全て、自分なのだから、それを学んだ悠季は、目にも見える形で変化した。

精ちゃんからは『言いたいことを言う』事を学び『喜びの表現』も学んだ。
幼稚園の先生からは『ずーと見守っているよ』と、安心を学んだ。
アイススケートでは『自分の足で歩く』事を学び『自分に自信』を持つ事も学んだ。

様々な出会いと体験は悠季に、自分を信じる事、そして、自分を認める事。
過去の心の傷は、自分を守らない事も、知った。

それは悠季が描く絵にも表れた。岩手で偽善と暮らしていた当時の生活、つまり虐待を話す事が出来ない時期に描いていた絵は、過去を消すのでは無く、過去の自分と向き合う姿勢、その姿勢を、確立するための準備段階だった。

集中力を高めて自分の世界に入り込み、記憶だけを頼りに、とにかく描く、でも、その記憶はあまりにも残酷過ぎて、描きたくない物ばかり、だから猛スピードで、何枚も、何枚も、描いてはポイ、描いてはポイを繰り返していた。

そんな当時の絵は、観るからに『描き損ねた』と、うかがえる絵ばかりだった。
画用紙には、たった1人の女の子を描き、手がない、足がない、口がない、目がない・・などの絵、 また、『束縛』する絵には、女の子の体にぐるぐる巻きの蛇を描き、 『監視』を表現する絵には、蛇の顔は女の子の顔を睨む。『死』を意味する絵には、刃物の刃先が女の顔へ向けられていた。

どれもこれも、生々しさを描き、身動きがとれない女の子の絵だった。

恐怖と向き合っている時は、その恐怖を語ることに怯え、我慢するために『弱い自分も隠した』。 でも、学んだ恐怖を語る事によって『弱音を吐いてもいい』と学び、 愚痴や不満、甘えや寂しさまでも、素直に認めて語る事が出来るようになった。

日々の時は、過去と向き合う時間であり、逃げるよりも向き合う事を、選んだ悠季は、1日1日と、本来の自分を取り戻していく。

㉖ ほんわか(トラウマを想い出に変える作業)

「悠ちゃんには友だちがいない、悠ちゃんの友だちは
チャッピー(愛犬)とミッキー(岩手の友だち)だけ。」自分に語り続ける悠季、

「友だちなんかいらない。ただ誰でもいい、遊べればいい、
でも、誰も遊んでくれない。 ママ、会いた~い」と、涙する悠季。

悠季は多くの別れを経験し、寂しさや悲しさまでも学んだ。
そんな悠季は、友だちを作る事に・・怯えていた

   寂しい思いを抱くと、人恋しくなる。
   でも、その寂しさを埋めるために、“誰でもいい”・・と、
   この流れは、寂しさや空しさを募らせるだけなのです。

ぽっかり空いた心の穴、その穴を埋める “代わりのものなど無い”。

「チャッピーの前に、白い犬を飼っていたの。でも、死んじゃった。」

いきなり話を始めた悠季だった・・が、グッと、硬く口を閉じて下を向いた。
それでも顔を持ち上げると、未夢へ、笑みを作り、話し始めた。

「チャッピーと一緒にお風呂へ入っていた時、いきなりドアが開いたの。
其処には、偽善さんが立っていたの、“ひっー”、って固まっちゃった。 (笑う)
チャッピーなんかこうだよ。  (両手を耳に当て頭を引っ込めると、笑った)
そしてね、お風呂の中に隠れちゃった。“ビビ”っちゃって・・、
その時の偽善さんの手には、包丁が握られていたの。」

ゆっくり、ゆっくり話す悠季は、過去に学んだ恐怖の出来事を、今は、おもしろ、おかしく話すために、一齣、一言を、工夫するように、言葉を選びながら話していた、 そんな悠季の顔は、強ばりと笑みが交互に表れた。

「チャッピー、おかしかったよ。」と、笑ってまとめた。

この話の内容は、今回で3度目、ところが、話し方や表情が大きく変化した。

一方で、何度も繰り返す、この話は、死を覚悟した、1つ、なのかも知れない。 そのため悠季の心に深く根付き、今も尚、色あせる事なく、当時に抱いた恐怖までも・・呼び出している・・。

でも、今、悠季は『トラウマを想い出に変える』作業をしている。

「ママと一緒に、岩手の話をしていると、夢に出てくるの。
今日みたいに、話をすると、夢の中で、偽善さんが大きくなって現れる。
すっごっく怖い顔をして悠ちゃんを襲ってくるの。悠ちゃん、寝るのが怖い、怖くて眠れないの」

訴えるように話す悠季の顔は、恐怖に戦いていた。
悠季が未夢へ弱音を吐くのは『お泊まり事件』以来だった。

「悠ちゃんのクマさんバスタオル、おばあちゃんがゴミ箱に捨てたの。悠ちゃん拾ったんだ。
だって、クマさんバスタオル大好きだもん。偽善さんにも捨てられた。全部で3回捨てられた。
いつも悠ちゃん、拾ってきたの、クマさんバスタオルがあると、落ち着くの。」

安らぐような笑みをこぼす。
その当時の悠季の心を温める物は、たった1つ、
たくさんの想い出が詰まった、クマさんバスタオルだけだった。

「そうだよね、赤ちゃんの時から、クマさんバスタオルに、こだわっていたよね~ぇ。
そういえば、あの頃、一番、困ったのは、お昼寝の時だったなぁ~。

悠季は、寝たいのに、今にも、コロンと、寝そうなのに、
クマさんバスタオルがないから、泣きながら、クマさんバスタオルを探すんだ。

『洗濯したから、このタオルは?』って、別のタオルを悠季に手渡すと、
目を閉じたまま、手触りを確かめるように、手や頬で・・、スリスリするんだ。
その時に気に入らないみたいで『ポイ』って、そして、また泣いちゃうんだ。
マジで困ったよ、(笑)

そうね~、確か、お座りが出来た頃から、なぜか、あのタオルがお気に入りになったよね。
悠季が移動の度には、必ず、クマさんバスタオルも持って行ったな~ぁ、
もう、ボロボロになったでしょ、」

「うん、でも、だ~いすき」と、嬉しそうに笑みを広げて、
タオルが手元にあるように、ニコニコしながら、スリスリ・・

突然、目を開けて・・、
怯えるように・・、

「寝るのが・・怖い」と、ボソッと・・
「どうしたの?」
「夢の中で、偽善さんが追ってくる、もの凄ーく、大きくなって、追ってくる。
悠ちゃん、必死に、逃げるのに、どこまでも追ってくる。」と、ベソ・・

偽善と2人で暮らしたのは・・2年、偽善から離れて3年が過ぎた、今でも、悠季の記憶の中で生き続けている。 『逃げたらぶん殴る、どこへ逃げても、必ず、見つけ出して、ぶん殴る。』と、当時の悠季に、偽善が埋め込んだ脅迫だ。今もなお、悠季の中で生き続けている。

「そうか、そんな時は、ママを呼んで、 (任せろ・笑み)
悠季の夢の中へ入って、ママがやっつけてやる。」

にこっと、笑みをこぼしたが、「どうすれば、ママが夢の中に出てくるの?」と、
必死な表情で真剣に問う。

「ママはいつでも、悠季の側にいる、大声で呼んでごらん、悠季の声が届いたらママは飛んでいく。 ママは、悠季の夢の中にも、入れちゃうんだよ。ママが、必ず、悠季を守るから、」

「岩手の事を思い出すと、恐い。」繰り返しながら涙する悠季。
「解った、ママ、悠季が眠るまで、側にいる、ずーと、いるから。」

2人で2階へ行き、悠季を布団の中へ入れると、
「ママの方へ背中を向けて」と、横向きで寝てもらった。

『恐い』という恐怖を学んだ心は、無意識に自分を守る術をとる。
その無意識な姿が顕著に現れるのは、無防備になる睡眠時間なのかも知れない。

  未夢の手が布団の中へ滑り込み、悠季の背中に触れた、
  手の平は、氷に触れた感触を味わい、反射的に引いた。
  それでも、悠季の背中が気になる手は、肩から背中へと動く。

冷たすぎる背中は、過去に怯える心を映し出し、
石のような硬い背中は、今も尚、恐怖と戦い続けている、心を映し出していた。

そんな悠季の心を守るように・・、神経までも、尖らせて、必死に戦っている。
悠季の背中は、とても8歳の子供の背中とは、思えないものだった。

温かくな~あれ、柔らかくな~あれ、ぐっすり眠れますように・・と、
手を動かしながら、何度も何度も心の中で繰り返す・・・未夢。

ところが、悠季の背中は、未夢の手を拒否するように、何時になっても、冷たいままだった、
そんな悠季の背中に未夢の腕が負けるのか・・、腕の重みと疲れに見舞われた・・、

そのとき、養母のザラザラした手が・・未夢を包み込んだ。

  そういえば、私もよく・・摩ってもらっていたな~ぁ、
  お腹や背中・・『痛い』というと、私が眠りに就くまで・・、
  ずーと、ザラザラな養母の手が摩ってくれた。

未夢は、養母のザラザラした手が、痛くて嫌いだった、でも摩って貰っていた時だけは、 そのザラザラの手が、とても温かくて心地よかった、ありがとうね・・と、想い出に頬を緩めた未夢『お袋さん、腕、痛かった、ろうなぁ』と、今の自分に重ねていると、突然、腕が軽くなった。

そのとき、未夢の手が、悠季の背中が、ぽかぽか、まるで養母が助けてくれたように、思えた、
思い出に浸る未夢の心も、ほんわか・・。 

すると、気持ちよさそうな、寝息が聞こえてきた、悠季の顔を覗くと、
穏やかな優しい顔をして気持ちよさそうに眠っていた。そんな悠季の顔に「おやすみ」。

翌朝、階段を降りてきた悠季が
「ママ、ママ、夢を見なかったよ。また、摩ってね、気持ちよかった~ぁ♪」と、笑顔を見せた。

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