過去を取り戻す事は出来ない、子どもの成長を見守るのが親の役目、でも、見守る事が出来なかった時間もある、だから、沢山、沢山、子どもと話をする

⑫ 失った2年(病院通いが始まった)

3人の生活を始めて、まず、悠季の居場所となる幼稚園探しを始めた。
でも、2週間が過ぎても見つけられない・・、 居場所とは安心であり楽しみでもある。

幼稚園探しに悩む未夢に、友だちが絶賛する幼稚園を教えてくれた。 直ぐに問い合わせると、1人の園児が引っ越しのために辞めるタイミングに出会い、悠季が入園できた。

「早く通いたいな~ぁ」と、悠季のワクワク声が高鳴る、

3人の話題は、1週間後から通う幼稚園の話で盛り上がった。
『幼稚園が決まった』この流れは、悠季の居場所が決まった事になり、心に安心が届いた。

すると、悠季が1人で抱えていた様々な不安が・・様々な形で表面化した。

「悠ちゃんは、ママと暮らしたかったよ。」と、悠季が突然いった。
「ママも、悠季と暮らしたかったよ。」と、ゆっくり応えた。すると、
「ママは、誰が、一番、好き?」と、真剣な顔、真剣な声で、未夢に問う。
「ママは、悠季が、一番、大好き」と、悠季と目を合わせて・・返す、と、

悠季の顔には『嘘だ』の言葉を光らせるように、全身から不信感を露わにした。

  未夢が『悠季を手放した』この事実は、悠季の心に不信感を植え付けたのは事実。
  また岩手に暮らしていた当時に大人たちから様々な話を聞いている事も予測が付く。

そんな悠季の思いを秘めて未夢へ直接問いた、この流れは、未夢にとって嬉しい出来事だった、 その後も、悠季と未夢の2人の時を刻むと、悠季は同じ質問を繰り返し未夢も同じ答えを繰り返す。

   心に届く『安心』は、パンパンに張り詰めていた心がほっとする事。
   そんな心が呼び込むのは・・・体調不良。
   目に見えない心の病は、目に見える病となって現れる。

幼稚園が決まって2日が過ぎると悠季が突然倒れた。
体温を測ると39度2分。この時を皮切りに、悠季の病院通いが始まった。

「ねっ、車、出して、病院へ行く。」と、未夢の声は慎也に指示を送った。
「どこにあるのか判らないよ、」と、オロオロする慎也。
「看板を見た、日曜日だし、救急しかない、」と、悠季を抱き上げた未夢。

看板を頼りに走り続けて約15分が過ぎると、休日診療の病院に着いた。
その時、廊下を歩いてる看護師さんを目にした未夢が声を掛けた。

「すみません、保険証を持っていないのですが、診察を受ける事はできますか?」
「大丈夫ですよ」の言葉を返した後に、受付へ案内されると問診票を手渡された。

その後、看護師さんは職務に戻るように、再び、廊下を歩き始める。
また、未夢は悠季を慎也に預けて、問診票を読み始める。

「判らない、母子手帳がないから・・」と、言い訳するように未夢の声が囁かれた。
「仕方ないだろう、解るところだけ書けば、なっ」と、慎也の声が流れた。

1問1問を読み進めていくと・・未夢は愕然とした、
いくら考えても、想像を膨らませても、悠季と離れていた2年間は・・、何も見えない、何も思い出せない、何も分からない、何も予測できない、悠季がどんな時を刻んでいたのか・・、

この時、未夢は『悠季の親としてのページに空白がある』その事を改めて突きつけられた、

現実を突きつけられた未夢の脳裏では『私は親と違う、子どもを捨てていない』と、勝手に思い上がっていた自分を恥じた・・失った時間は取り戻せない・・。

  『子供を連れてきて終わった、のではなく、始まったんだ』と、気づかされた。
  舞い上がっていた自分が情けなくて、悔しくて、寂しさ・・・に、押しつぶされた。

そんな未夢の腕に悠季が戻ると、
まるで、失った母親の時を取り戻すように、悠季を抱きしめた。

診察室に入ると「風邪ですね、薬を出しますので飲ませて下さい。ご飯をしっかり食べれば直ぐに治りますよ。」 と、診察の手が止まりカルテに書き込みながら、先生の声が流れた。

   未夢は、診断結果よりも『親の資格なし』の烙印に・・口を閉ざす。
   慎也は、悠季が倒れた事にショックを受けたのか・・・口を閉ざす。

そんな2人が部屋へ戻ると、未夢は無言のまま悠季を布団に寝かす、
慎也は玄関周辺でウロウロと落ち着かない様子を見せた、その時、

「ご飯を食べないからだ!」と、いきなり怒鳴った。
「親なんだから、叩いてでも、食べさせろ!」と、慎也が抱えた不安が爆発。
「だって、食べないんだもん。」と、泣きじゃくる未夢が叫んだ。

   悠季を心配する慎也の気持ちは、怒りとなって未夢へ飛んだ。
   その怒鳴り声は、落ち込んでいる未夢の心を切り裂いた。

下を向いたまま涙を落とし続ける未夢、
一方、慎也は、お湯を沸かし洗面器に注ぐと、悠季の枕元へ置いた。

暖かい湯気が立ち上る ・・、重い空気が・・もっと重くなる。
そのとき、「おなか、すいた」と、今にも消えそうな声で、悠季は未夢を労る。

涙を拭いた未夢が、頷くと「ごめんね」と、悠季の気遣いに、
「りんご、すり下ろしてあげようか」と、悠季がにこっと笑みをみせた。

翌日、熱は37度に下がったが、悠季の体力が気になる未夢は別の病院へ、
ところが、未夢が期待する治療を受けられず、咳が始まり、三度目、病院へ。
すると、未夢の心配が的中するように、喘息の診断名が増えた。

病院帰りに未夢は、薬局に立ち寄った。呼吸を楽にするハッカ系の物を購入し、家へ戻ると、 塗り薬は悠季の胸と背中へ、また、オイルは小さな入れ物にお湯を入れ、その中に垂らした。 枕元から立ち上る蒸気は、スースーとハッカの香りを漂わせた。

悠季の寝顔を見つめる未夢、心なしか呼吸が楽になったようにみえた。
寝顔を見つめ続ける未夢の顔に・・ほっ、笑みが表れた。

仕事から戻った慎也が、未夢の隣に立った「病院へ、行ったんだろう、どうだった?」
「あっ、ごめん、気付かなかった、おかえり、喘息だって・・」

「なんで、喘息になるんだ?」と、慎也から素朴な疑問が、
「う・・ん、色々原因は、あるみたいだけど、遺伝や精神的な要素も大きいらしい。
そういえば、私も、良太も、喘息、だったな~ぁ。」

「なんで、未夢は喘息になった?」
「田舎から東京へ出てきたら、なっちゃったぁ、良太も、そうかも知れない。
でも、慎也と海へ何度か行ったじゃない、気がついたら、良太の喘息は治っていた。」

「そうか、じゃぁ、海へ行こう、なっ、綺麗な海へ行こう」と、慎也の声が飛んだ。

後日、悠季が岩手で暮らしていた時に通った、保育園と病院の電話番号を調べて問い合わせた。
その時に付け加えられた言葉は、偽善は優しく子煩悩という高評価だった。                        (驚いたけど、外面の良い人だから・・・納得)

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