過去に恐怖を学んだ心は、たった一言の言葉でも、過去の恐怖体験を呼び覚ます。心が刻む時計は、時空間を飛び越える、過去と現在を自由に行き来する。

⑧ 怒鳴り声は大声と同じ?

たった数分のやりとりの中で、過去と現在の時を・・行ったり来たりする。
過去の出来事が苦しければ、現在の時間も苦しい。心がざわめく・・・。

    悠季の笑顔とおしゃべりは、日々を彩る。
    そんな悠季に目に見えない 『安心』 という贈り物が届いた。

    喜んだ悠季が贈り物を開けると・・笑顔が消えた。

    箱の中に入っていたモノは『心を写す鏡』。
    その鏡は『秘密の涙』を写し『怒りと恐怖』を映し出した。

    吐き出したい怒りと恐怖。
    でも、吐き出す事が出来ない怒りと恐怖。

    そんな怒りはイライラを募らせ、
    恐怖は感情を揺さぶる。

    口を開くと、“怒鳴り声”。
    言葉を使えば、“ケンカ言葉”。

    すると、当然のように言葉を使うことに、怯える。
    口を閉ざす事によって、蠢く思いは、心と体を蝕む。
    気力を奪われ、不快感を味わい、ただ時を食い潰していた。

二家族の生活は精神的な苦痛から慎也が終止符を決めた。その流れから3人が引っ越した。
でも、悠季を見つめる未夢は、今、精ちゃんを失う事に・・不安を抱える。

3人の生活が、今日から始まる・・たぶん、家庭、家族を築く時間へ・・と、

「ご飯を食べよう」と、未夢が声を掛ける。
「いらない。」と、返事をする悠季はテレビの前に座っていた。
「食べないとダメだよ、食べよう。」と、歩み寄る未夢。

   精ちゃんを失った悠季の態度は一変した・・と言うよりも、旅行中の悠季を思い出した。
   旅行中の悠季は、全く、食事に興味がなく『ご飯を食べよう』という意思すらなかった。
   そんな悠季に『ご飯(食事)を食べる』という姿勢を作り上げてくれたのが、精ちゃんだ。

「偽善さんは、そんな事を言わなかったよ。」と、振り返った悠季の顔には、笑みが・・。

  その笑みは、意図的に偽善の名を使い、比較し『今更、親面するな!』と訴えていた。
  そんな悠季の意図を理解しながらも、未夢は、

「好きな物だけでも良いから、食べてよ。」と、食い下がる・・と、
「うっせーなぁ、あっちへ行けよ。」と、邪険にする、その響き・・、

    ドスの利いた低音を響かせる、
    その声、その言葉遣いは・・正に、偽善そのもの、
    そんな悠季が振り返ると、冷たく鋭い視線で未夢を睨んだ。
    その顔は・・偽善だった。
    未夢の足が止まり、偽善化した悠季の後ろ姿を見つめていた。

その時、「これ、知ってる、由美姉ちゃんと、いつも観ていたよ。」

『あっ、悠季の声だ・・ぁ』と、遠のいた意識の中で悠季を確認する未夢。
『これ、知ってる』か、また言っている、そんなの自慢しなくてもいいのに。

未夢の頭の中は、もやもや・・、でも、
視線は、真っ直ぐに悠季の背中を見つめていた。

「ねっ、食べないと、死んじゃうよ、食べて。」と、囁く未夢に、
「死なないよ、岩手では食べなかったもん。」と、得意げに答える悠季。、

     岩手での生活を語る悠季は、未夢へ怒りを飛ばす。
     あなたは私の事を知らないでしょ、
     どんな生活をしてきたのか、
     何も知らないのに、
     うるさいよ、

     悠季は『岩手での生活』に。
     未夢は『大切な人の死』に。

     悠季から速攻で返された『死なないよ』の言葉は、
     当時、良太(息子)が、未夢へ使ってきた言葉だった。
     その言葉を返された未夢は『良太の死を甦らせた』
     大切な人を失う恐怖、それに伴う孤独、人生への絶望・・
     その当時に味わった悲痛さは、
     止めどもなくこぼれ落ちる・・涙が、

「食べてよ~ぉ」と、叫ばせた。

その大声は未夢自身を呼び覚まし、
その一方で、涙と共に固まり・・倒れた悠季、

悠季を抱きかかえた未夢は、ただ謝り続ける・・
「ごめん、ごめんね、もう、大声を出さないから、ごめんね」

怒鳴られる事に怯える悠季は、大きな声にも怯える。
大切な人の死を何度も見つめてきた未夢は、失う事に怯える。

たった一言の言葉が・・、
ごく普通に使われる言葉が・・、

過去の恐怖を呼び覚ます。
恐怖に戦き泣き濡れる・・過去。
そんな過去に負けまいと、必死に立ち向かう・・今。

心が刻む時計は、あっという間に、時を超える、
1つの言葉には、たくさんの感情が付いてくる。

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