心の友だち、もしかして誰にでもいるかも知れませんね、楽しい話は現在の時を刻み、辛い話は過去の時を刻んでいます。もっと話が出来るといいねっ。

⑱ 心のパートナー(ゆきちゃん)

『ひとりぼっちは嫌い』と、心が騒ぐと、もう1人の自分を作り上げる・・かも、
『過去の出来事を忘れたい』、この思いは、気を紛らすために・・誰かと遊ぶ・・行動で表れる、

   孤独は嫌い、だから、居場所を求める。
   大人は嫌い、だから、友だちを求める。

悠季は、友だちを作る切っ掛けに、良太の話をしていた、が・・、
その話を封印した事で、他の言葉も使えなくなった。

ここ数日の悠季は、“友だち、友だち”、と、騒ぐ事なく落ち着いた日々を過ごしていた。
そんな時に、ボーンと元気よく玄関ドアが閉じられた。驚いた未夢が玄関へ行くと、

「新しい友だちが出来たよ♪」と、息を弾ませて、
「ゆきちゃん、って言うんだ。悠ちゃんよりも1つ年上なの、だから2年生なんだ。
この近くに引っ越して来たばかりで、友だちが居ないんだって。」と、

話す悠季の顔も声も嬉しそうに弾んでいた。

「そうか、良かったね、家が近いんだ、たくさん遊べるね。」と、未夢も喜んだ。
「うん、遊びに行ってくるね。」と、元気に家を飛び出した。

この時から始まった、悠季の嬉しそうな顔、弾む声は、
次の日も、遊びから帰ってきても、消える事はなかった。

未夢は『友だちが出来て本当によかった』と、喜んでいた、が・・
3日後、遊びから帰って来た悠季は微笑みながら、

「今日もね、悠ちゃんが階段に座っていたら、ゆきちゃんが来たの。
それでね、今日はね、たくさん話をしたよ。」と、話し始める、

「お兄ちゃんが交通事故で死んじゃって、お母さんは、泣きながらお酒ばかりを飲んでいるんだって、お父さんは、家に帰ってこないんだって、でもね、たまに帰ってくるけど、夜遅く酔っ払って帰ってくるんだって、」

未夢を見つめて話し続ける悠季の顔には、笑みが広がっていた。
『その話って・・』と、過ぎらせる未夢。

「そうか、辛いね、ゆきちゃん、可哀想だね。」と、未夢はゆっくり言葉を使う。

「それでね、お父さんとお母さんは、ケンカばかりしているから離婚しちゃうかも・・」と、
話を切ると、なぜか悠季は下を向き、未夢から離れていった。

悠季が笑みを見せて話すその内容は、兄の良太が死んだ当時の家庭内の様子だった。
『交通事故・涙・お酒・離婚』それらの言葉は、全て、当時の未夢に当てはまる。

悠季の背中を見つめる未夢・・・、

「ゆきちゃんのお母さんに、ママも、会いたいなぁ。ダメ、かな・・?
だってさ、ママと、ゆきちゃんのお母さん、よく似ているよね。

ほら、良太が死んだ時、ママも泣きながら、お酒ばかり飲んでいたじゃない。
ゆきちゃんのお母さんと、ママは一緒だね、

ゆきちゃんは、辛いよね、悠季も辛かったでしょ。
ママね、ゆきちゃんのお母さんの気持ちが解るような気がするの、
だからね、話が合うかも知れないよ、

ママ、話をしたいなぁ、ダメ、かな?」

悠季は、ただ、未夢を見つめ続けていた。
まるで『何を言っているの?』と、言いたげに・・。

「ママ、お手紙を書こうかな、
お手紙を書いたら、悠季は、ゆきちゃんに届けてくれる?」
「うん、いいよ」と、速攻で戻した悠季の声は、明るい。

「悠季は、ゆきちゃんの家を知っているの?」
「知らない、だって、悠ちゃんが1人でいると、ゆきちゃんが来るんだ。」
「そうか、じゃあ、悠季が友達と一緒に居る時は、ゆきちゃんは来ないの?」
「うん、」と、応えると、外を見つめた。

「ゆきちゃん、どこに住んでいるのか、解らない。」と、応えながらも窓へ歩み寄り、
「あの辺から来るんだ。」と、道に向かって指さした。

「そうか・・、悠季は知らないんだ。
じゃあね、今度、ゆきちゃんに会ったら、お家がどこなのか、聞いてくれる? 
それでね『ママが会いたい、って、言ってた』って、伝えて欲しいの。
そしたら、ほら、悠季と一緒に遊びに行けるでしょ、ねっ。」

「うん、解った。」と、ニコニコしながら応えた。

その後、未夢は手紙を書いて悠季に手渡した。
あれから、数日が過ぎると、遊びから帰ってきた悠季は、

「ゆきちゃん、お腹が空くと、お菓子とジュースを食べているんだって・・、
でもね、お菓子がもうじき、なくなっちゃうんだって・・、」と、

悠季自身が困っている表情を見せた。

「そうか、ゆきちゃん、ご飯を食べていないの?」と、声を掛けるが・・、
未夢の声など届いていない様子のまま、悠季の視線は下へ・・、

「お母さんは、ご飯を作ってくれないんだって、
台所のテーブルの下に段ボール箱があって、
その中に、お菓子とか、カップヌードルが入っているんだって、
それでね、ゆきちゃんは、其処から取り出して、食べているんだって、」

悠季がゆっくりと話すこの内容は、
まるで岩手での記憶を語るように、声のトーンや視線が徐々に変化した。

「そうか、でもさ、カップヌードルやお菓子だけじゃ、身体、壊しちゃうよ。」

未夢は悠季を見つめて言葉を掛けていたが、悠季の耳には全く届いていない様子だった。
そんな悠季は、まるで自分が喋った話の内容を耳から聞き取り、再確認をするように、
その当時の出来事やその当時の思いを、振り返っている・・かのように見えた。

「ゆきちゃん、お腹が空いているけど、食べる物がないんだって、
お母さん、作ってくれないんだって・・」と、

ゆっくりと同じ話の内容を、繰り返す悠季は、“心ここに在らず” の状態だった。
過去の時を彷徨い、何かを探しているような、確認をしてるような、姿に見えた。

その後の悠季は、学校から戻ってくると、いつものように家を飛び出し、遊びに行く、
そして、帰ってくると「ゆきちゃんと遊んだ」と、報告のみ・・が、続く、

ゆきちゃんの話をしなくなり・・数日が過ぎた。
未夢は、妙に悠季が気になり、食事の支度をしながら、

「ゆきちゃん、ご飯、食べているかな? お母さんが、ご飯を作ってくれないんじゃ、
ゆきちゃん、どうしているのかな・・」

「ゆきちゃん、お腹が空いても食べる物がないから、それでね、食べ物を捨てるゴミ箱の中から、食べられる物を探して、食べているんだって。」と、
スラスラと話す悠季に、未夢は疑問を持つ、『その話は・・嘘?』と。

悠季が、ゆきちゃんの話をする時は、どこか遠くを見つめているように、一齣、一齣を、ゆっくりと話していた。その姿は『何かを思い出し、その出来事を言葉にする』そんな流れを感じていたが、今は、未夢へ視線を送り、はっきりと言葉を使っていた。

『ごめん、聞いちゃダメ、なんだよ・・ね、』と、未夢の心の声が流れる

「ゴミ箱の中から食べ物を拾って食べていると、お腹、壊しちゃうよ。ゆきちゃん大丈夫かな。
以前に悠季が話してくれたのは、『カップヌードルやお菓子を食べている』って、言ってたよ。」と、悠季と視線を合わせて話す未夢。

「うん、今は、無くなっちゃったんだって、
でもね、ゆきちゃんが『お腹空いた』って、言うと、怒鳴られちゃうんだって。」と、
訴えて、
「ゆきちゃんが学校へ行こうとすると、お母さんが止めるんだって、
それでね、なかなか学校へ行けないんだって、でもね、今日、始めて学校で会ったんだよ。」と、急に声を弾ませた。

「そうか、今日、始めて学校で会ったんだ、良かったね~ぇ
ゆきちゃんも学校へ行けて良かったね。」

悠季は嬉しそうに頷く、

「悠季がゆきちゃんと学校で会う時は、どんな時?」
「悠ちゃんが1人でいると、ゆきちゃんに会うの。」

「そうか、じゃあ、悠季の友だちは、ゆきちゃんのことを誰も知らないの?」
「うん、悠ちゃんが階段に座っていると、後ろからゆきちゃんが来るの。」笑みを広げる

「あれ、そういえば、悠季が遊びに行くと、ゆきちゃんによく会うよね。
その時も悠季が1人でいる時・・なんだよね。いつも悠季の後ろから来るんでしょ。」

未夢は、悠季が話してくれた内容を、そのままに悠季に問う。

「この間、学校へ来た時は、前から来たよ。」ほほえむ。
「そうか、前から来たんだ。」
「うん、東門から入ってきた。」

にこにこと笑みを見せる悠季に、笑みを返す未夢は『ゆきちゃんは、悠季の心の中に住む人だ』と確信した・・。また、悠季も東門から入るのです。

ゆきちゃんの話で埋め尽くされた約2ヶ月、この間の悠季は、いつも1人で遊んでいた、・・切ない、と過ぎらす未夢は『僅かだけれども岩手で暮らしていた当時の話を聞けた』とホッとした。

恐怖を学んだ心は、自分の気持ちを語れない。
そんな自分を守るためには、もう1人の自分が必要なのです。

思い出したくない出来事、消したい出来事、忘れたい出来事などは、自分を介して話す事に抵抗があり、また、思い出したくないから、話す事もできない。 その状況を改善してくれるのは、一番身近にいて、全てを知っているもう1人の自分なのかも知れません。 口火を切ってもらう事によって、自分の口から話す切っ掛けにもなる・・と、未夢は考えていた。

未夢は子供の頃(小1)、幸せそうな子と母を目にすると、私は“あの子と入れ替わる”なんて念じた時期がありました。悠季を見つめていると、その当時の思いが横切る。

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