自分に嘘をつかないと約束して欲しい、いつでも、どんなときでも、自分に正直であれ、その姿こそが、きっと、自分への自信へと繋がると思うから。

⑯ 父親(呼び名の意味)

『別れ』・・には、様々な形がある。
そして、避ける事が出来ないのも・・『別れ』なのです。

突然、岩手の友だちと別れ、幼稚園卒業という流れの中でせっかくできた友だちとも・・別れた。そんな悠季にとっては『別れ』とは、辛く、2度と味わいたくない出来事の1つなのです。

春休みになり元気の無い悠季を見つめて、「何か・・」と、考えていた未夢の目に飛び込んできたのは、 ポストの中に入っていた一枚のチラシだった、電話にて問い合わせると面接へ行った。

面接の対象者は、親の未夢ではなく、始めから子どもの悠季に焦点を合わせて行われた。
まず「あなたのお名前は?」から始まった質問は、年齢・電話番号・住所・・と続き、悠季は得意げに、にこにこしながら答えていく、 そんな悠季の隣に座る未夢は『スゴイ・・教えた覚えないのに・・』と、悠季の答えに驚いていると、突然、口を閉ざした。

以後、悠季の口は開く事なく、面接を終えた。

その後、車に乗っても・・、家へ戻っても・・、
悠季の口は開く事なく、口を閉ざしたまま・・絵を描き始めた。

悠季を見つめ続けてきた未夢は、何気に悠季の隣に座り・・、声を掛けた、

「面接の時に『お父さんのお名前は?』って、聞かれたじゃない。
悠季は、応えられなかったでしょ、なぜ、かな、困ったの?」と、軽い気持ちで問う未夢。

「偽善さんと一緒に暮らしてきたし・・、 
でも、偽善さんの名前を言いたくないし、・・・困った。」
下を向いたまま、一言、一言を、こぼすように話し、涙もこぼれ落ちた。

そんな悠季を抱きかかえた未夢は、

「そうだよね、困るよね、困ったね、悠季は、良い子だね。」
悠季の頭を撫でる未夢は『私と違う・・良かった』と、心が、ホッとしていた。

「悠季、約束して欲しいの、『自分に嘘をつかない』って。
いいんだよ、それで、悠季の気持ちを大切にしてくれて、ありがとうね。
悠季の思いを、そのままに、言葉にして良いんだから、っね。
いつでも、どんなときでも、自分に、嘘をつく事だけは止めてね、」

未夢の腕の中に居る悠季の顔が持ち上がると、涙を拭いた。

「悠季は、どうして、慎也の事を『パパ』って、呼んでいるの?
いいんだよ、無理に慎也の事をパパと呼ばなくても。」

悠季は、あるタイミングで、突然、偽善さんを名で呼び、慎也をパパと呼ぶようになった。
未夢も慎也も、悠季に呼び名を強制した事はない、それは、悠季が決める事と考えている。

「悠ちゃんは、ママと暮らしたかった」と、
未夢と目を合わせて訴える、と、悠季の目から涙が落ちる、

そんな悠季を抱きかかえて、

「分かった、分かっているよ、ママも悠季と暮らしたかった。
ごめんね。

そうか、パパの名前か、ぁ・・、悩んじゃうね、ごめんね、
悠季にとっては、偽善さんが、パパだもんね。」

言った瞬間に、

「あんなのパパじゃない。」と、
いきなり大声で否定すると、涙をあふれさせた。

「ごめんね、いいんだよ、悠季が決めれば、いいんだからね、
無理をしないで、自分に嘘をつかないでね。」

泣き崩れる悠季を胸に抱く未夢は、
脳裏の中で悠季の言葉を・・反復していた。

   『悠ちゃんは、ママと暮らしたかった』・・か、
   『私と暮らしたいから、慎也をパパと呼ぶのか』と、過ぎると・・、

   そういえば私が養父母を『お父さん、お母さん』と呼んだ切っ掛けは、
   『祖母の家へ戻りたくなかった』からだ、・・・改めて気付かされた。

未夢は、悠季を見つめているのに、自分の過去を甦らせていることに・・、気付いた。
これが子育て・・かも・・』、と、噛みしめる。

悠季を通して甦る過去、その出来事によって、その当時に、心が抱えた悲痛さまでも、今、甦る。

未夢は、悠季に掛けている言葉は、自分の過去にも掛けている事を・・知った。
記憶の片隅においてきた、黒い思い出が、徐々に、塗り替えられていく・・。

大人の身勝手な行動に振り回されるのは、いつも・・・『子ども』。
どう対応すべきか、どう対処すべきか、悩むのも・・・『子ども』。

大変だなぁ、子どもは・・・。
      悠季を抱き、悠季を見つめる未夢は、自分の子ども時代を甦らせる。

 
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