虐待死のニュースは本当に辛いです、周りの大人たちが気づいても、一度は保護しても、救えない子供の命、なぜか、それは大人目線のせいです。

③ プレッシャーに弱い

いつものように岩手へ向かう2人が乗った車内は、いつも味わう緊張感が無く、
弾む会話と声でワクワク気分満タンに、正に、旅行気分を味わっていた。

その後、なんでも屋さんとの待ち合わせ場所、ビジネスホテルのロビーに着くと、
お互いが軽く挨拶を交わし、慎也が受付にて2本の鍵を手にした。

「では、部屋で少し休憩を取った後に、最後の打ち合わせをしましょう。」
「それでは、僕たちの部屋で」と、慎也が声を掛けながら1本の鍵を手渡した。

そうして、約30分後に、再び、4人が顔を合わせた。

「何か飲みます、ビールにしますか?」と、未夢の明るい声が呼びかけた。
「いいですね~ぇ、」と、笑みを見せた、なんでも屋さん。

ビールを囲み飲み始めると、なんでも屋さんの1人が静かにゆっくりと話しを始めた、
その内容は、慎也と未夢の旅行気分を一気に打ち消し、現実の時へ戻した。

「とにかく、悠季ちゃんを抱きかかえたら、できる限り、早く、車へ戻って下さい。
後ろを振り返らずに、まっすぐ、車を目指して、乗り込んで下さい。」

未夢を直視するなんでも屋さんの視線は、真剣に、切実に訴える。
その真剣さに、未夢の頭が縦に動く・・・が、

「あの・・もしも、追ってきたら、どう、なるのでしょうか?」

不安を大きくした未夢の気持ちが、ストレートに言葉に乗ったが、なんでも屋さんには、その質問の意味が伝わらない様子で、口を閉じたまま次の言葉を待っていた。

「例えば、偽善さんが追ってきた時に、足止めをしてくれる、とか・・?」

「僕たちは、腕力で阻止する事は出来ません。
つまり、殴られても、殴り返す事は出来ないのです。
なんとか、時間を稼ぐ事は出来ますが、それ以上の事は出来ません。

だから、悠季ちゃんを抱きかかえたら、とにかく車へ向かって進み乗り込んで下さい。
車に乗ったら、前だけを見て高速道路に向かって走り抜けて下さい、
一刻も早く、高速道路に乗って下さい。」

真剣な眼差しで切実な現実をしっかり伝える、なんでも屋さんの言葉は、未夢に
『最初で最後のチャンスです、失敗は絶対に許されません。』と、伝えていた。

未夢がゆっくり頷くと、なんでも屋さんの視線は、慎也へ切り替わった。

「ご主人は車の中に居て、エンジンを付けたまま、いつでも走れる状態を保って下さい。
そして、奥さんと悠季ちゃんが乗り込んだら、直ぐに走らせて下さい。
その時は、出来る限り高速で走り抜けて下さい。
どんなに速くとも、僕たちは、ご主人の車の後を追っていきます。」と、

言葉を切り、慎也の様子を伺っていたが・・・・・全く、反応なし。
すると、なんでも屋さんの慣れた切り返しが流れる、

「連絡は携帯で取り合いましょう。他に、何か聞きたい事はありますか?」

静まり返る部屋の中で、
「それでは、明日、10時、ロビーで会いましょう。」

なんでも屋さんの指示で、4人が立ち上がると頭を下げ合った。

部屋を出て行くなんでも屋さんを見送る慎也と未夢は・・・、
安心という手が、突然、離れて、それぞれが崖から転落するように、奥深い穴の中へ転がり落ちた。 手を伸ばしても誰も助けてくれない・・、そんな孤独感を味わう。

2人は目の前に突きつけられた現実のデカさに、放心・・数分の時が流れる。

「ごめん、疲れたでしょ・・、巻き込んで・・ごめん・・。」と、未夢がささやくが、
無反応・の・慎也・・

「明日、早いし、お風呂、入りに行く?」と、慎也を覗き込む未夢の声が流れた。
「そうだな、風呂、入るか。」と、らしくない声と単語のみで応えた慎也。

思考回路停止状態の慎也を見つめる未夢は、
『ヤバ、かなり緊張している、もしかして、プレッシャーに弱いのかな・・』
と、過ぎらせる・・が・・、未夢は見守る事にした。

その後、お風呂から戻った未夢が部屋の中を片付けていると・・、慎也が戻ってきた。
ところが、苛ついているのか・・座る事もせずに、落ち着かない雰囲気を漂わせたまま、
部屋の中を、行ったり、来たり・・と動き続ける・・、そのとき、足が止まった、

「あいつらさ、冗談ばかり言っていた。こんなの本当に役に立つのかよ! 
もっとさ、2人で打ち合わせをしなくてもいいのかよ!!」と、

自分が抱える不安を、なんでも屋さんへの苛立ちに変えて、怒る慎也。

「えっ、お風呂、一緒だったの?」と、
『落ち着いて』の思いを乗せて、ゆっくり声を掛ける未夢。

慎也の頭がちょこっと縦に動く・・が、忙しそうに動き回る足、しゃべり続ける口、
その口が一瞬でも閉じられるタイミングを狙うのは・・未夢の視線と口、

「お茶でも飲んで、座って、」
未夢の声が流れると、口を閉じ怒り顔のまま慎也が座った。

「あの人たちにしてみれば、
明日の出来事は、特別な事じゃないのよ、いつもの事なのよ。

だってさ、
これが、あの人たちの仕事なんだもん、

大変だよね。
きっと、仕事中は緊張の糸を張り続けている、と思うょ。
その緊張を保つためには、気持ちの切り替えが必要で、息抜きが必要なんだと思うな。

冗談くらい言わせてあげてよ、
冗談を言い合っていた、なんて、素敵じゃない、
それだけ、明日は真剣勝負、と、言う事かもよ、ねっ。」

未夢の口が動いている間は慎也の口が閉じられた、が、
ところが未夢の口が閉じると、再び同じ勢いで慎也の怒りコメントが流れる。

慎也を見守る未夢は『プレッシャーに弱い』と・・フゥー、眠りに就いた。

④ 旅立ちは高速道路を走る(悠季5歳、夏の終わりに)

岩手に住む悠季に会いに行く時は、まず、偽善宛てに葉書で日時を知らせる。 当日は偽善の自宅へ向かう途中で、公衆電話から電話を入れた後に、再び、車を走らせて家へ向かう。

今回も、いつもと同じ流れを踏んで、悠季が住む家に道路に着いた。

車から降りた未夢は後ろめたさに背中を押されて、ドキドキが高鳴る、『いつものように、いつものように、』と、 なんでも屋さんからのアドバイスを噛みしめて、足を動かす・・未夢。

「ママー、ママー」と、悠季の大きな声が聞こえる、
未夢の視線が悠季を捕らえると、大きく両手を振るその姿は『待っていたよ~』と語っていた。

未夢の顔がほころぶと『ヨシ、ヤッタァー』と、ガッツポーズの代わりに、自然に腰が下がると『早く追いで』と両手を広げた。そんな未夢の腕の中に吸い込まれるように悠季が飛び込んだ。

悠季を抱き抱えた未夢の身体がクルッと、180度回転すると、足が勝手に走り出した。
『マズイ、冷静に、冷静に・・』と、噛みしめながら歩調を戻し、悠季を見つめると、

「ママと暮らそう」と、笑み満タンに声を掛けた。
そのとき、悠季の顔から笑みが消え、口を硬く閉じると・・、困った顔が現れた。

そんな悠季に不安を抱えた未夢の視線が、車を探すと、
後部座席のドアが開き『早くおいで、早く乗って』と、進行方向へ進路をとって待っていた。

『ありがたい』の思いが 「エンジン、付けて」の言葉に代わり、
悠季を抱きかかえたまま乗り込むと『急げ』の思いが「走って」に代わった。

走る車に乗った未夢は悠季を見つめて・・不安を抱える、

「おっ、追ってくる、追ってくる、すげ~、すげ~ょ」と、突然、興奮しまくる慎也の声が飛ぶ。
「すげ~ょ、すげー、俺がどんなに速く走っても、付いてくる、すげ~よ、」と、

まるで、初めての遊園地で興奮しまくる子どものように、慎也は喜び勇んでいた。
そんな慎也にため息を漏らす、未夢の視線が・・、悠季・・へ、

堅く口を閉じる悠季の顔が『・・困る、悩む、困る・・』を、交差させていた。
それでも未夢・・は、「ママと暮らそう」と声を掛けては、悠季の顔を見つめる、

無言を貫く悠季へ、未夢は何度も何度も繰り返した。
でも、悠季の口は全く動く気配なし・・

そんな悠季を見つめ続ける未夢は『連れて行っては、ダメ?・・なのか・・』と、
不安を大きくし・・口を閉じる。

 すると『ママと暮らしたい』と必死に訴えた当時の悠季が未夢の脳裏を占領した、
    『あの当時の悠季を信じろ “迷うな” 』と、未夢は自分へ言い聞かす。

そのとき、興奮し過ぎる慎也の声が、未夢の耳に飛び込んできた、

声を掛ける事によって、興奮を加速させる事だけは避けたい・・、未夢は、
『早く、早く、看板が現れて』と、心の中で唱え続ける、

高速道路へ向かう車内の中では、それぞれの思いが飛び交っている。

「あっ、高速道路への看板が出てきたよ、ほら、左、見えた? 見た?」
未夢は、できる限り冷静にゆっくりと声をかける。
「あぁ判った、見たよ、もう時期だな~ぁ」と、

慎也の声が落ち着きを取り戻した。
未夢は、ホッと胸をなで下ろしていると、携帯電話が鳴った。

「追ってきそうもありませんね、高速の入り口、中へ入る手前で車を止めて下さい。
そこで待っていて下さい。」と、なんでも屋さんからの指示を、慎也に伝えた。

慎也の車が止まり、後方になんでも屋さんの車も止まると、1人が降りてきた。
悠季が座っている窓がノックされ未夢が開けると、なんでも屋さんの顔が現れた。

「追ってきそうもないので、ここで別れましょう。」と、あっさり言った。

あまりにも素っ気ない言葉に未夢は驚いた、が・・、
慌てて鞄から封書を取り出した。

この封書には『無断で悠季を連れ出した事への謝罪と全ての責任は未夢にある』と、
書き記した物だった。

「すみませんが、この手紙を偽善さんへ、渡してもらう事はできますか?」
「はい、判りました、渡しておきます。では、気をつけて」と、

即、返事を返すなんでも屋さんの声と言葉は
『早く高速道路に乗って下さい』と、促しているように届いた。

そんな、なんでも屋さんの手が、悠季の頭へ伸び、撫でながら、
「もう、ママと放れないようにね。」と、笑みを送った。

その仕草に、その言葉に『連れ戻される例がある・・』と以前、なんでも屋さんが教えてくれた、
当時の話が未夢の脳裏を横切る・・『絶対に、守る』と、未夢は自分へ送った。

「お世話になりました、ありがとうございました」と、
未夢が頭を下げると、運転席に座っている慎也も振り向いて頭を下げた。

高速道路に乗った車が前へ進む、
後部座席に座る悠季と未夢の視線は、流れる景色を見つめる。

「ママは捕まらないの?」と、
不安げな表情で未夢を見つめる悠季、堅く閉じられていた口が開いた。

笑みをこぼした未夢は、
「大丈夫だよ、ママは捕まらないよ。」と、口を開いた悠季に喜ぶ。

「悠ちゃんがママの所へ行ったら、
『お巡りさんに言ってママを捕まえてもらう。
だからママの所へ行ってはダメだ』って、パパが言っていたよ」と、

偽善からの脅迫を語る悠季は、拭いきれない不安を未夢に訴えた。

「そうか、ありがとうね、
ママを心配してくれたんだぁ。大丈夫だよ、
ママは、悠季と、ずーと、一緒に居るよ。」と、笑顔満開の未夢。

慎也のはしゃぐ声が消え、悠季の声を聞けた。

『よかった~ぁ』と、未夢は1人でホッとしていた。
車は予定通りに仙台へ向う、今日から1週間の旅が始まった。

※なんでも屋さんとの出会いは、※
親が居ない未夢が “親の代わりになってくれる人” として、なんでも屋さんを選んだ。そして話し合いの場にも立ち合ってもらった人です。今になって振り返ると、立会人は弁護士が最適かも知れない、例えば、その後に、なんらかの裁判を起こす時でも、始めから現場の様子を見てもらえる事は、もしかして、大きなメリットではないか、と、思った。

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