お店に並ぶ商品は確かに『誰でも手にとって』と、いっているけど、黙って持って行ってはダメ、お金を払ってね、それじゃないと色々困るからね

㉗ 万引き(自分の人生を受け入れた時)

自分を・・全ての自分を、自分が、受け入れることが出来た時、自分に正直になれる。

数日後、慎也を交えた3人が夕食を囲んだ。
そのときに、テレビニュースで「万引き特集」が流れた。すると、

「悠ちゃん、万引きをした事があるよ。」と、笑みをこぼしながら明るい声を響かせた。

当時の悠季が岩手の話をする時は、必ず、未夢と2人の時だけだった。
そんな悠季が、慎也を目の前にして、話を始めたのは、この時が初めてだった。
悠季の変化に喜ぶ未夢の顔がほころび、悠季を見つめる慎也の顔は嬉しそうだった。

「お母さんは、由美姉ちゃんたちには買ってあげたのに、悠ちゃんには買ってくれなかったの。だから、飴を1つ、盗んだ。」と、ニコニコしながら言った。

「そんなはずは、無いだろう。」と、

大人を信じる慎也の声が、悠季の話を否定した。その言葉は、子どもが正直に語る事を、封じる形になる、良い事も悪い事も、何でも言葉に出来る形を整えたい未夢は、慎也の言葉を隠すように、

「そうか、万引き、しちゃったんだ~ぁ。悠季も、欲しいよ~ねぇ。」と、
悠季を覗き込みながら、ゆっくりと声を掛けた。

「うん、」と、力強い悠季の返事と、ニコニコ顔が返ってきた。
未夢が頷くと、
「万引きって、どうして悪い事なのか、知っている?」と、ゆっくり問う未夢、
「? ? ?」悠季の頭上に表れた。

「あのね、悠季が盗んだ、その飴ね、お店の人が、買っているんだよ。」
「おばあちゃんが買っているの?」と、不思議そうな表情がひかる。
「そうか、おばあちゃんが、お店の人なんだ。」
「うん、」

「そうだよ、おばあちゃんが買って、お店に並べているんだよ。そしてね、お店に並んだ、その飴をお客さんが買ってくれるとね、おばあちゃんは、お金をもらえるの、
するとね、おばあちゃんはもらったお金でまた新しい飴を買って、 お店に並べてくれるんだよ。
悠季たちがいつ来ても欲しい飴があるように、って お店に並べてくれるんだ、偉い~ね。」

未夢は悠季を見つめて、ゆっくり、ゆっくり話していると、
にこにこしながら悠季が頷く、視線は徐々に真剣になっていく。

「でもね、悠季のように黙って持って帰ったら、おばあちゃんはお金をもらえないでしょ、」
頷く悠季、
「お金をもらえない、おばあちゃんは、飴を買う事が出来なくなっちゃうんだ。
例え、お店に飴がなくなっても、飴を並べる事が出来なくなっちゃう。そうなったら、おばあちゃんのお店は潰れてしまうかも知れないよ。おばあちゃん、可哀想でしょ。」

「うん、かわいそう。」と、真剣に返事をする悠季。

「だからね、悠季は、もう万引きをしちゃダメだよ。この世の中には、“ただ” の物は、何1つ、無いんだ。 みんなが一生懸命に働して、お金を稼いでいるんだよ。もう万引きをしないでね。」

「うん、わかった」と、微笑んだ悠季。

「悠ちゃんは、おばあちゃんが飴を作って、並べているんだ、と思っていたから、
買っているとは、思わなかったよ~。」と、未夢の話に理解を示し笑みをこぼす悠季。

「そうか、買っているんだよ。
例えばね、おばあちゃんが飴を作っている場合でも、
飴を作る材料を買うでしょ、だからね、おばあちゃんも買っているんだよ。」

「うん、わかった。」返事を返す悠季の顔は、にっこにこ。
万引きの話をしているのに、慎也も未夢も、悠季の笑顔に引き込まれた。

「悠季が、今度、もしも万引きをしたら、
ママは、悠季をお巡りさんのところへ連れ行くよ。そして、牢屋へ入れてもらうからね。」

「ママは、悠ちゃんが嫌いなの?」泣きそうな顔をして問う。

「ううん、違うよ、大好きだよ、ママは悠季が大好きだからこそ、 悪い事をしたら、ママはお巡りさんのところへ連れて行くの。悠季に二度と、万引きをして欲しくないから。ねっ。」

「ねっ、」未夢の視線は、慎也へ。
「そうだ、家では悪い事をしたら、即、警察、行きだなぁ」と笑みを浮かべる慎也。

その後の悠季は、岩手での生活を、思い出した時に言葉にした。
あんなに、拒否していた出来事を、笑えるような話に切り替えて会話を弾ませた。

恐怖を抱える心は、怒りが湧く。
恐怖(過去の出来事)から解き放された心は、怒りも消える。

悠季が穏やかな日々を刻み始めると、未夢の怒りも消えていた。
どうやら2人が抱えたトラウマは、それぞれの『想い出の箱』へ収める事が出来たようです。

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