親が出来る事は、子どもだって出来る、その自信を育てるのが親の役目。自分の足で立て、自分の足で歩け、自分の頭で考えろ、頑張れ、

⑭ アイススケート(逃げるよりも立ち向かう)

幼稚園生活は、悠季に『自分を信じて、自分を取り戻せ』と伝えたようです、
逃げるよりも、立ち向かえ』と、語るように悠季は、一つ、一つ、自分を取り戻す。

この時期の悠季と未夢は、自分の感情に振り回されて、心も体も・・クタクタ。
心の病は気力を奪う『何もしたくない、何も考えたくない』と、ゴロゴロと寝転ぶ日々を刻む、

そんな部屋の中に流れる空気は、常に、重い空気が漂い・・淀んでいた。
気力はもちろんのこと、体力も奪われていく・・そんな時間が刻まれていた。

「ねぇ、悠季の体調は、今一だけど、何処かへ、遊びに行かない? 気分転換をさせてあげたい」 悠季の様子が気になる未夢は、この環境から抜け出す切っ掛けを模索し・・・慎也に提案した。

「スケートでも行くか、俺が教えてあげられるのは、それくらいだからな、
そうだなぁ、できれば室外のスケートリンクがいいなぁ。
景色を見ながら滑ったら、いい気分転換ができるんじゃないかぁ。」

未夢の問いかけに、速攻で応えた慎也のアイディアに乗って、
2日後の日曜日に富士急のアイススケートリンクへ行った。

「悠ちゃんは滑らない」と、朝早く起こされた悠季の顔は膨れっ面、その思いが怒りに・・?
「せっかくここまで来たんだから、滑ろう、なっ」と、しゃがみ込んだ慎也が・・なだめる。

『滑らない』『滑ろう』の言葉が飛び交う中で、一歩、引いて見守っていた、未夢。
「分かった、悠季は滑らないのね、いいよ、」と、静かに言葉を流す未夢が・・切れた。

そんな未夢が受付へ行くと、1日券と3足の靴を手にして2人の元へ戻った。慎也がスケート靴を持つと、未夢はキョロキョロと辺りを見回し、スケートリンク全体を見渡せる椅子を探し、荷物を置いた。そして未夢の手は悠季を抱きあげると無言のまま椅子に座らせた。

未夢の口は閉じられたまま手を動かし、悠季の足にスケート靴を履かる、
そして悠季を抱きかかえて立たせると、“ポコッ” と、何の違和感もなく立った。

その姿に未夢は驚いたが・・、
「痛いところはない? 大丈夫?」と、平静を装い確認をとった。
「うん、大丈夫」と、悠季から返事が返ってきた。

慎也と悠季でリンクへ行き、未夢はその様子をベンチで見守っていると・・、
悠季は全く滑る気配がなく、いつまでも慎也に抱かれたままだった。

「ダメだ、こりゃ」と、声を漏らした未夢、
残っているスケート靴を履くと、未夢はスケートリンクへ飛び込み1人で滑り始めた、

そのとき・・、
「ママ、滑れるの? じゃあ、一緒に滑ろう」と、
未夢の背後から悠季の嬉しそうな声が飛んできた、足を止めた未夢が振り向くと、

「ごめんね、ママ、下手だから、悠季と手をつないだら、転んじゃう、だから、ごめんね。」と、寄ってきた悠季を拒み、未夢は再び、1人で滑る。

「気持ちいい~」と、声を漏らす未夢・・全身で感じる心地よさは、流れる空気の心地よさ、
冷たい風が頬をくすぐり、風に揺れる木々の微笑み、景色を見渡せる、この、開放感、
部屋の中では決して味わう事が出来ない、爽快感に包まれていた。

部屋の中で味わっていた・・なんともいえない不快感・・、
そんなものは、ここにはない、ここにあるものは、ただ、ただ、自然の力だけだった。

「後ろ見てみろ」と、慎也の声が未夢の背後から聞こえてきた、振り向くと
「あっ、滑ってる」喜ぶ未夢の声が流れた。
「あれは、滑っている、というよりも歩いているなぁ、しかも、超、高速で」と

慎也と未夢の笑顔が飛ぶ。

「きっと、私が滑っているから、自分も出来ると思ったんだね、悠季は、いつもそうなんだ。私が出来る事は、自分も出来ると、小さい頃から思っているみたい。」

悠季の真剣な表情、その集中力、未夢は久しぶりに目にした。
悠季を見つめる未夢と慎也は、滑りながら会話も弾ませた。

「2歳になったばかりの時に、突然、『海へ行きたい』って、言うんだ、しかも、朝、朝だよ、
驚いたよ、それでね、急いで支度して悠季を連れて行ったんだ、それなのに・・、だよ、
海を目の前にして、驚いたのか・・、ビビったのか・・、腰引けちゃって、全く海に近寄らなくて、笑っちゃうよね。 だから、私が入って海の中を走り回ったり、波を飛び越えたりしたんだ、
そしたら飛び込んできた、海と遊びだした、しかもキャッキャッしながら、楽しそうだった」

「凄いな~ぁ、2歳だろう。」

「うん、そんな悠季を見る親子連れがねっ。自分の子供に『あんな小さな子が入っているんだから、あなたも大丈夫よ、入りなさいよ』なんて、数人のお母さんの声が聞こえてきたょ。
私はそのときに言いたかったね『お母さん、あなたが入ってごらん』なん~てね。」

「そうだなぁ、子供は親のまねをするからなぁ」
2人で笑った。

悠季を思い出し、良太も思い出す未夢の顔は緩みぱっなし・・嬉しくて、嬉しくて、心が弾んだ。
気分転換ができているのは、悠季だけじゃなかった、未夢も慎也も嬉しそうだ。
もう少し、もう少し、一緒に、滑っていたい・・・そんな未夢の思い、が、

「ごめん、私、限界だわ、足・・痛くて、後は、よろしくです。」
「おっ」と、慎也から返事をもらい未夢はベンチへ戻った。

その後も悠季は1人で滑り続けていた、が、

「転んだ」と、悠季を抱えて慎也がベンチへ戻る。
「滑る、大丈夫だよ」と悠季。
「ダメだよ、着替えよう」と手を動かす未夢。

悠季がリンクへ飛び込み、未夢が衣類を片付けていると・・、
慎也が、悠季を抱きかかえて戻ってくる。

「また転んだ」を繰り返して・・・5度目の時。
「もう限界だろう」の慎也の声でスケートリンクを後にした。

朝10時過ぎに入園し閉園の午後6時まで、ほぼ滑り続けた悠季は、
車に乗り込むと、後部座席を占領して気持ちよさそうに寝息を立てていた。

「行って良かったね、悪化したらどうしようと思っていたけど、ほんと良かったあ。」
「部屋の中に居っぱなしじゃあ、病気は治らないのかもなっ、
そういえば、良太もそうだったなぁ。」

慎也も未夢と同じように、悠季に良太を重ねていた。

この時のスケートは、本来の悠季を取り戻す、切っ掛けになったようです。
この日を境に、口癖だった『疲れた』や『抱っこ』の声が消えた。

どこへ行っても、長時間歩き続けても、愚痴らず、苛つかず、共に歩き続けた。

そんな悠季の姿は、歩き始めた頃の悠季を思い出す。 歩く事が嬉しそうに、自分の足で歩き、抱っこや疲れた等の言葉は、1度も聞いた事が無かった。 その当時の想い出と今の悠季を見つめる未夢は『また、1つ、本来の悠季の姿を取り戻した』と心からホッとしていた。

一つ乗り越えると、それが自身になり、また、一つ乗り越えられる。

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