心に刻まれた学びは消しゴムで消すように簡単に消す事は出来ない。訳の分からない不安や寂しさ、どこからともなく襲ってくる、悲しみや苦しみは『涙』として表れる。

⑮ お泊まり(訳の分からない不安に怯える)

春休みが終わり悠季は年長さんになった、再び、楽しそうに通う日々が始まった。

そんな時に、悠季が通っている英語教室から1枚のお知らせプリントを持ち帰ってきた。
その紙には『毎年恒例のお泊まり会を4月末に開催』参加者募集の内容だった。

「どうする? もうお泊まりはイヤでしょ」
「泊まりに行きたい、でも、また寂しくなったら・・、泣いちゃったら・・、どうしよう。」

不安げな表情で未夢に・・問いかけた。
その表情が訴えているのは、 先月末に 未夢と暮らし始めて、始めて心の闇に気付いた。 行われたスキー教室に、悠季が1人で参加して気付いた・・ 心に潜む恐怖だった。

た、 参加した悠季は、 自分の心が抱える『訳の判らない感情』だった。

先月末に行われたスキー教室に参加した悠季は、 自分で理解できない感情に見舞われ、 自分の心に振り回されていた。
すると 先月末に行われたスキー教室に参加した悠季は『不安』を抱え、その不安が呼び込む『恐怖』 自分の心の中に潜む記憶は『恐怖』が、突然、甦った。 この出来事は、悠季自身が理解できない感情に大きな恐怖と不安に晒された。

時に起きた出来事だった。 悠季は、自分の心の声に 自分の心が悲痛なの声に気付いた

「夜になるとママに会いたくなる、
ママに会いたくて涙が出ちゃうどうしてなのか分からない
急に寂しくなって、ママに会いたくなって。どうしてなのか分からない、昼間は大丈夫なのに。」

スキー教室から戻ってきた悠季は、泣きはらした顔のまま、未夢に訴えた。

悠季が悩んでいるのは、頭(現在)と心(過去)がバラバラな事、
そのため、自分の気持ち(心)が理解できずに、不安を抱えていた。
  つまり、
  頭では『ママはいる、一緒に暮らしている』と、理解しているのに、
  心では『過去に体験した、寂しさ、悲しさ、苦しさ』が、甦り苦しんでいた。

現在の時の中に、過去の苦しみや悲しみなどの、体験記憶が勝ってしまう。
そのため、頭と心がバラバラになり、今の時を、苦しんでしまうのです。

心の底から押し寄せてくる、訳の分からない気持ちは・・・ 岩手にいる当時に悠季が学んだ、寂しさや怖さが、今も尚、悠季の心を蝕んでいた。 そんな自分と、どう向き合えばいいのか、未夢に泣きながら必死に訴えていた、

悠季を見つめる未夢は『今、苦しんでいるのは、ママじゃない、悠季だ』と、
突きつけられた出来事だった。

その晩、慎也にプリントを見せると、タイトルのみを読み流し、
「また、泣いちゃうよ、止めた方がいい、なっ」と、素っ気ない言葉が悠季に飛んだ。
「行く、行きたい!」と、慎也を直視して大声で叫んだ、悠季。

その叫びは、たぶん慎也へではなく、悠季自身に、自分に『がんばれ』と飛ばしていた。
その後、悠季が眠りに就くと

「どうしよう、悠季は行きたいみたい、でもね、また泣いちゃうんじゃないかって、
不安がっていて、それでね、『どうしよう』って、私、相談されたの。
悠季の気持ちを考えると・・、めげるなぁー・・・」ぼやく未夢。

すると、今一度、プリントを手にした慎也は丁寧に読み返していた。

「ここに書いてある住所は、どこだ? 
『現地集合』って、書いてあるから、近いんじゃないか?」

「あっ、そうか、其処に書いてある住所なら、この部屋から1時間もかからないよ。」

「それならさ、夜中でもなんでも迎えに行けばいい、
取り敢えず、悠季ちゃんが行きたい、というんだから、入れてあげれば、なっ。」

「そうだよね、そうしよう、私の携帯を持たせて、何かあったら電話をするように、悠季に言って、先生にも話をして・・、そうだ、そうしよう」

未夢は、悠季の思いだけを見つめて、『辛いよね』って、思いを寄せ過ぎて、悠季が望む道を探す事が出来なかった。慎也から届いた答えは、正に『それだ』と喜んだ。

お泊まり会、当日を迎えた。

朝、起きた時から悠季の口は、閉じられたまま、まるで『口を開けば弱音が漏れる、漏らさないために口を閉じる』そんな気持ちを溢れさせたまま、車に乗り込んだ。

現地に着き、未夢と悠季が車から降りると、其処は、まるで田舎の公民館を思い出させてくれた。大きな木がそびえ立ち、太陽の光が木漏れ日を放す。それらの景色に誘われた未夢は、思い出に微笑んだ。

ところが、未夢の隣に居る悠季は、ガチガチに固まり、ただ立っていた。

そんな悠季の手を握りしめると、「行くよ、いい?」と、
未夢が声を掛けると、悠季は頷いた。

2人揃って建物の中へ入ると、仕切りのない広い床張りの部屋、
そこには数人の子ども達がはしゃぐように、それぞれの思いのままに動き回っていた。

正に『公民館』と微笑んだ未夢、
そんな未夢の視線が、悠季へ流れると・・・ガチガチ。

未夢の視線が先生を探すように奥へ伸びると、部屋の奥に6.7人の輪があり、その中に先生もいた。どうやら打ち合わせをしている様子だった。

様々な光景は、未夢の目を楽しませてくれたが、悠季はひたすら立ち尽くすだけ。 それでも時を刻む時計は止まらず、次から次へと親子連れを吸い込み、親は先生に挨拶をして帰る。 残った子どもは、まるで紐に繋がれた犬が放れたかのように部屋の中を自由に飛び回っていた。

そんな親子連れの波が途切れた時、未夢は先生に声を掛けた。
でも、全く気にとめてもらえず、先生と話が出来る雰囲気もない・・、
ただ「はい」と、視線をもらっただけだった。

未夢は諦めるように話しを始めた、そして、
「もしかして、悠季は夜中に泣いてしまうかも知れません、」
「大丈夫ですよ、この子たちが面倒を見てくれますから、面倒見が良いんですよ」

先生の対応を見つめた未夢は『ダメだ、やっぱり通じない・・、
でも、今回は、ちゃんと言わなきゃ』と自分に言い聞かせると、今一度、声を掛ける、

「もしも、泣いてしまったら、電話を掛けさせて頂けますか?
私の声を聞けば、落ち着くと思いますので、お願いします、
私の携帯電話を持たせますので、よろしいでしょうか?」

未夢は必死に声を掛けていたが、
先生は『いつもの事』と、語るようにチラ見した。そして、

「はい、分かりました。この子たちが居ますから、大丈夫ですよ。いつも私は助かっています。」と、ただ未夢へ視線を送り微笑んだ。すると
「お母さん、ご心配ならば、少しここに居て、様子を見ていてもいいですよ。」

と、補足された、その言葉に・・、
『そうじゃないんだけど・・』と、未夢の心がぼやいた。

諦めた未夢は悠季に託すことにした、
未夢が座り込み、悠季と視線を合わせると、

「我慢をしないで、ねっ、
先生に声を掛けてから、ママに電話をしてきていいからね。
携帯は、ここに入れておくから」と、鞄のポッケに携帯電話を入れた。

悠季は、無言のまま頷く、そんな悠季の全身から必死さが伝わってくる、
未夢は思わず『一緒に帰ろう』と、口から漏れそうになったが・・飲み込んだ。

「悠季、ママ帰るよ、いい?」と、問うと、悠季の頭が動く。
未夢は、今一度、先生に声を掛けて、頭を下げて、この場から出て行った。

自宅に戻った慎也と未夢は、
いつでも迎えに行けるように、スタンバイした。

「悠季、偉いよね、あんなに不安がっているのに、逃げ出さずに、向き合おうとして、
あんなに苦しそうなのに、それでも、自分の心と戦って・・、偉いよ。」

「ほんとだな、偉いよ。」

悠季が気になる2人の会話は、全く続かず、ただ耳を澄ます、
そんな2人が神経を尖らせているのは・・、いつ鳴るのか分からない電話のベル、だった。
未夢の視線が時計を見つめると、夜9時を回っていたその時、電話のベルが鳴った。

「もしもし」悠季の声
「どうした、迎えに行こうか?」
「涙が出て止まらないの、ママに会いたい、でも、泊まりたい。」

必死に涙を堪えて話す悠季の声は『頑張りたい』の意思表示・・そのもの、

「そうか、お泊まりをしたいんだ、そっか、分かったよ。」
思わず『大丈夫・・』と、漏れそうになった言葉を呑み込んだ、未夢は、

「今日は楽しかった?」・・・・・「うん」
「何をしたの?」・・・・・・・・「うん」

返ってくる悠季の声、言葉は、
今、悠季が語れる精一杯の声と言葉だった。

未夢は、意識して明るい声で、できるだけ・・ゆっくり・・話す。

「今、お姉ちゃんと一緒に居るんだ、良かったね、
どこから掛けているの?」

「おトイレ」

「そうか、おトイレから掛けているんだ、
悠季は、ひとりぼっちじゃないよ、ほら、今は、お姉ちゃんが、悠季の側にいる、
ねっ、悠季は、ひとりぼっちじゃないよ、良かったね。」

「うん」

「ママも、いつも、悠季の側にいる、今だって、悠季の側にいる。
悠季は、ひとりぼっちじゃないよ。」

そんな会話が5分くらい続いた後に、

「うん、おやすみ」と、悠季から声がかかった
「おやすみ、楽しい夢を見てね。」
「うん」と、返ってくると、電話が切れた。

電話を切った未夢、「がんばるんだって」慎也に誇らしげな笑みを送った。
準備万端整えた慎也、「そうか、明日は遅れないように迎えに行こう」渋い顔

大きな壁、厚みのある壁、一つ、一つ、自分の意志で乗り越えていく、悠季、
自分の意志に対して、忠実に、誠心誠意、実行している・・・偉いよ、悠季は。

  ありがとうね、悠季、
  でもね、泣きたい時は、我慢しないでね。

  泣いてもいい、泣きたいだけ、泣いていい。
  我慢しないで、きっと、その涙が、
  あなたの気持ちを落ち着かせてくれるから。

  心に刻まれた学びは、(過去の出来事)
  消しゴムで消すように、簡単に消す事は出来ない。

  訳の分からない、不安や寂しさ、
  どこからともなく襲ってくる、悲しみや苦しみ、

  それら全てを包み込んだ、悲痛さ・・・は、『涙』として表れる。
  悠季が怯えていた『不安』 は、
  この時の涙が・・・消してくれたようです。

その後は、1人でお友達の家へお泊まりもでき、お留守番も出来るようになった。
また、1つ、本来の悠季を取り戻した。

■ Copyright © 2019 慢性ショック・心の病・心のケア youalive.com all rights reserved ■