虐待死のニュースは本当に辛いです、周りの大人たちが気づいても、一度は保護しても、救えない子供の命、なぜか、それは大人目線のせいです。

⑦ いってヤッタ♪(怒鳴り声+幻覚+勇者)

過去に味わった恐怖は、時と場所を選ばず、甦る。
その恐怖は、心の底に住み着いた出来事、なのに・・、現実の時に甦る。

二家族生活も3日目の夜になると、美也ちゃん家族は 遠慮? 気遣い? を消すように、 自分たちの時間を楽しむ。その一方で未夢だけが精神的にも肉体的にもクタクタ・・フゥ―。

夕食が終わると、即、6畳の部屋へ移動したのは美也ちゃんと弘平君、2人は台所に背を向けて座り込むと雑誌を広げて楽しそうに会話も弾ませた。その横では、精ちゃんと悠季がいつものように戯れながら転がり廻る、その姿は、まるで子猫同士のじゃれ合いのようだった。

そんな光景を台所から見つめる未夢は、いつものように1人で後片付けをしていた。
それでも、6畳の部屋からこぼれてくる空気は、未夢の目や耳も弾ませてくれた。

小さな部屋の中で、それぞれがそれぞれの時を刻み、自分の時間を楽しんでいる。
2LDKの部屋に広がる楽しそうな笑いや声は、まるで心地よいBGMを連想させた。

片付けを終えた未夢は、みんながいる6畳の部屋を避けて、対角線上にある台所の隅に座り込むと、目を閉じてBGMに身を寄せて微笑んでいた・・・気分は上々・・・、ほっ

突然、未夢が目を開いた・・、携帯電話を見つめながら、
大きく深呼吸をすると、耳にかざした・・、

テメーェ!」と、大声て怒鳴る偽善の声は部屋中を駆け巡る。

   その瞬間、
   心地よいBGMが消えると、
   未夢の意識までも消えていく・・

『忘れていた、いえ、忘れていたわけじゃない・・、そうだった・・』と、

  頭の中で言葉が流れる・・・全身から力が抜ける・・・、
  携帯電話を持つ手も、下へ、下へと・・ずり落ちる・・・

どこからか・・、遠くの方から・・、偽善の怒鳴り声が聞こえてくる・・、
薄らと聞こえるその声を、未夢の目と耳が・・探す・・、

  すると・・、未夢の視線が硬直・・、一点だけを見つめる、
  そんな未夢の目は瞳孔を開き・・、突然、右手を振り回す、すると、

「イッー ヤァーアー」と、お腹の底から振り絞る声を飛ばした。

この時の未夢が見ていたのは、クネクネと動く化け物、その姿は、トカゲと蛇が混ざった不気味な生き物、未夢の腕にグルグルと絡みつき、未夢と視線を合わせると、大きく口を開き『パク』と、いきなり腕に食いついた。その化け物を必死に振り振り払う・・・

『イヤ、イヤ』泣きながら腕を振り回す、パニックに見舞われて声すら出ない
お腹に意識を吹き込み「イーヤ~ぁ~」と、声が出たと同時に、幻覚から覚めた

  意識を取り戻した未夢の目から、大粒の涙があふれ出る。
  そんな未夢の視線は・・、約1メートル先にある携帯電話を見つめた。
  壊れる事を知らない携帯電話は、今も、偽善の怒鳴り声を響かせる・・

卑怯な手を使いやがって、悠季を返せ!」と、ド迫力・・。

  そのとき、無意識に未夢の両腕が耳に向かって・・動く・・・、
  ハッ! 『私・・・怯えている?』自らの行動に驚く・・。
  『偽善さんが目の前にいる時は、“怖い”、なんて一度も思った事がないのに・・』と、

姿なき姿に怯える” 未夢の視線が、悠季を探して6畳の部屋へ流れた。
すると、目の前に広がったのは・・・、

  まっくろな・・世界、
  視線を伸ばすと黒く大きな岩が2つ、寄り添うように並んでいた。

「ここ、どこ・・? 海・・?」と、

  問いかける未夢の視線が下へ向かう・・・、
  すると、まるで、波際に座り込んでいるように、
  足下には僅かな白いしぶきが・・

不思議感覚に惑わされる未夢・・・
しばらく・・呆然・・

「いや、違う、
ここは部屋、借りている部屋、
あそこは、6畳の部屋、畳の部屋、電気も付いている」

未夢は、自分に、必死に説明を繰り返す・・・、
そのとき、引き潮のように真っ黒な陰が、少しずつ、少しずつ、消えていく、

すると、床が・・、畳が・・、ゆっくり、ゆっくり見えてきた、
大きな岩は、美也ちゃんと弘平君の後ろ姿に、徐々に代わっていく、
真っ暗な部屋に、明かりがもどる・・。

『ふぅ・・』息を吐く、ほっと胸をなで下ろした未夢は、
『幻覚? 私が・・?』と、とても理解できずに・・不思議な気分だった。

幻覚から現実を取り戻した未夢、頭の中は・・グチャグチャ・・
何が起きていたのか・・振り返っても全く理解できず整理が付かない・・

『ボー・・』のまま時を止めた。

そんな未夢に、熱い視線・・不安な視線・が、届き、その視線へ、未夢の視線が動く。
すると、“ドーンとそびえ立つ姿” と・・・、目が合った。

この部屋に居る誰もが怯えている中で、ビクともせずに、仁王立ち、
その姿は、正に、勇者そのもの・・光り輝いていた。

そんな精ちゃんの視線を浴びた未夢、
涙を拭くと精ちゃんの元へ歩み寄った。

すると精ちゃんの腕が動き『悠季ちゃんは、あそこ』と指さす。

そこは、洋服ダンスと美也ちゃん家族の衣類が積み重なった・・隙間・・
僅かな隙間に潜り込む、その姿は『こわい、コワイ、恐い』と、心の声を響かせた。

両手で耳を塞ぎ、小さな体をもっと、もっと、小さく丸めて、
『隠してお願いだから隠して・・』と、今にも声が聞こえてくるほどに怯えている。

悠季が抱える恐怖は、未夢の足を動かす、真っ直ぐに携帯電話へ歩み寄った・・、が、
手を伸ばすことも・・、触れる事さえも出来ずに・・、ただ、元いた場所に座り込む、

そんな未夢は、約1メートル先にある携帯電話へ視線を送り、
怒りを込めて睨むだけ、今、出来る、精一杯の行動だった。

   この部屋に “偽善がいる” わけではない。
   誰かが “殴られている”、わけでもない。
   それなのに・・心が怯える・・体も怯える。

この部屋で怯えているのは、今、現在、起こっている出来事ではない。
それぞれが、それぞれの過去で体験した暴力(恐怖)に怯えているのです。

誰もが息を潜めて、この時が早く終わる事だけを・・、願っていた。

携帯電話から鳴り響く怒鳴り声は、収まる気配もなく、わめき散らす。
その怒鳴り声は、未夢だけを責め続けていた・・が、突然、

悠季に変われ!」と、切り替わった。

そのとき、精ちゃんが動いた、

まるで『もう我慢の限界』とでも言っているかのように・・、
固い決意を広げて悠季の側へ歩み寄ると、体を丸めて覗き込み、

「悠ちゃんの代わりに、私が出てもいい?」と、小さな声で尋ねた。
「うん」と、明るく応えた悠季の視線は、精ちゃんへ、

精ちゃんの足は転がっている携帯電話へ進み、手にすると未夢へ視線を送った、
『私が出てもいい?』と、確認をとる仕草に、未夢が頷く。

すると精ちゃんの視線は悠季へ送り、携帯電話を耳に当てた、

お前なんか、大嫌いだーあー」と、大声で叫んだ。

みんなの顔が一斉に持ち上がると、視線は精ちゃんを照らした。
スポットライトを浴びた精ちゃんの元へ、真っ先に飛び込んだのは悠季。

2人が顔を見合わせると、ガッツポーズの代わりにゲラゲラと笑い合った。
その笑い声は、キラキラと輝く太陽のように、部屋中に輝き放した。

  勇者が救ったのは、悠季だけじゃない、
  過去に怯えている、みんなの心も救った。

部屋中に笑みが広がる、そのとき、
もう、電話をしてくるな!」と、偽善に大声で留めを刺した。

精ちゃんの、声は、言葉は、輝く太陽に、花を咲かせた。
もの凄いことをやり遂げた精ちゃん、誰もがその行動に「ありがとう」を送った。

その直後、精ちゃんが手にする携帯電話は、身体から『もうこれ以上、引き離す事が出来ない』と、語るほどに遠ざけて、必死に未夢に向かって突進してきた。

  この姿こそが、精ちゃんが抱える、本当の気持ち・・が、表れていた。
  悠季のために立ち上がった精ちゃん、正に、勇者その者だ。

携帯電話を受け取った未夢の指が、即、電源を切った、
この早業は未夢が抱える恐怖を表していた。

「ありがとう、ありがとうね」と、はち切れんばかりの笑顔を飛ばす未夢。
微笑み替えしをした精ちゃんは、クルッと向きを変えて、

悠季へ視線と笑みを送った、
そして、おおきな一歩を踏み出すと、

「いーってヤッタ♪ いってヤッタ♪」と、

単調な言葉だけに、精ちゃん自身が怯えていた心と、悠季が怯えていた心を表現し、
その恐怖と戦った自分へ、精一杯の、エールが込められていた。

その時、精ちゃんの向かいに、悠季が飛び込んだ、
2人が顔を見合わせると、

「いーってヤッタ♪ いってヤッタ♪」 
「いーってヤッタ♪ いってヤッタ♪」と、

2人の思いがこだまする、
大きな声でリズミカルに歌い歩く、まるで練習でもしてきたかのように2人の呼吸はぴったりだ。

「い-ってヤッタ♪ いってヤッタ♪」と、心地よい空気を取り戻す、
「い-ってヤッタ♪ いってヤッタ♪」と、鳴り止まない宴、

そんな2人の姿は、まるでミュージカルの世界へ引き込むように、
出演者と観客を一体にし、笑顔一色に染めた、

高まる興奮、高まる笑顔、心が弾む、
心地よい空間を取り戻した。

その時、突然、舞台から飛び降りた精ちゃん、
この空間に酔いしれていた未夢の元へ駆け寄る。

「悠ちゃんと間違えていたみたい、急に、優しい声になって
『お前もパパを捨てるのか』って、言っていたよ。」と、

悠季と未夢を交互に、視線を送る精ちゃんの顔は、ちょっぴり不安げ、
一方、こぼしすぎる笑みのまま、未夢は頷きながらも

「ありがとう、ありがとうね、」と、同じ言葉だけを繰り返す。
精ちゃんが “ニコッ” と未夢に返すと、

悠季と向き合い、
「気持ち悪いね~ぇ」と、息もぴったりに2人の首がちょこんと倒れた、
「かわいい♪」と、目の前で見ていた未夢が歓声を上げた。

その後も2人の高揚した気分は消える事なく、眠りに就くまで祝い続けた。

翌日になっても興奮が収まらない未夢、
昨夜の光景を思い浮かべて頬を緩ませる。

「精ちゃん、凄いね、私、嬉しくて嬉しくて、ホント、私が言えなかった事を、全て、精ちゃんが代弁してくれたように思えて、言葉では感謝しきれない。ほんとに、ありがとうね。」

未夢の目の前に座る美也ちゃんにしゃべり続ける。

「あの2人ね、話し合っているみたい、この間、ちら~と、聞こえてきたのょ。
だから、あの時、精が立ち上がった、のかもね~ぇ。」と、

精ちゃんを誇る美也ちゃんの顔は、親の顔そのものだった。

「そっか、そうなんだぁ、なんとなく、親としては寂しい気持ちもあるけど・・、
昨夜の私は、悠季を助けられなかった。

悠季の気持ちを知っているのに、動けなかった。
マジな話、落ち込んだ~ぁ、(ニコッ) 自分が、情けなかった・・ぁ、

でも、これも事実・・なんだよね~ぇ、
ダメだ、これじゃぁ、頑張んなきゃ、だって、護ってあげたい、護りたいもん」

「うん」笑みを浮かべる美也ちゃん。

「子どもは子どもなりに、精一杯、生きているんだね。昨夜の精ちゃん、凄かった~ぁ。
まだ、5歳なのに・・ね、

子ども同士で助け合って、解決しちゃうんだもん。凄いよね。

でも、でもさ、相談できる友だちが、“いる”、ってさっ~ぁ。
“友だちが側にいる”、これって、心強いよね、」

「親なんて、そんなもんよ、」と、美也ちゃんの声が流れた。

「だね、(笑)
子どもって純粋だよね、きっと純粋だからこそ、無茶して傷ついちゃう、
そんなときは、やっぱり、親の出番ですか~(笑) 護りたいな~ぁ、頑張る。」

「うん」と、美也ちゃんの顔が動く。

◇偽善からの連絡は、この時が最初で最後になった。
◇美也ちゃん家族との共同生活は、約1ヶ月を刻み半強制的に幕を閉じた。

■ Copyright © 2019 慢性ショック・心の病・心のケア youalive.com all rights reserved ■